Andante
3
「相葉は今日、俺を助けてくれたんだ。
絶対仲良くなれると思う」
「……ん。俺も、そう思うよ」
嬉しそうに話す錬に、俺は素直にそう言ってやる。
「俺、明日から部活参加するんだ。
朝、迎えに来るって言ってた!」
どれだけ明日が待ち遠しいか、聞かなくったって伝わってくる。
俺は錬の話を笑って聞いていた。
けれど内心はかつて無いほどに複雑だった。
俺は果たして錬を守ってやれるだろうか。
次の日の朝、会長が錬を迎えに来たときから、錬に怪我がないかとか誰かに何か言われたりしてないかとか、気が気じゃなかった。
日曜日、錬が学園を離れてようやく俺は全身の力が抜けた気がした。
「何やってんだ俺……」
ぐしゃりと髪を掻き上げる。
これじゃ過保護と疎まれても文句なんて言えない。
……会長は、どんな思いで錬の傍にいるのだろうか。
一緒に部屋を後にする様を思い出し、俺は会長に話を聞きに行こうと考えついた。
そんな矢先であった。
「…………合宿?」
「うん。東京選抜の試験で」
転入後初の練習を終えた錬は、帰って来るなり唐突に、合宿でしばらくここを離れることを告げてきた。
「明日とか早すぎだよなぁ。
ここ来て三日目でもう出てくことになるとは思わなかった」
絶句する俺をよそに、錬は笑いながら話を続ける。
「俺が出て行ってる間によって転入生が来たのは夢だったのか、とかなるなよ!」
ケタケタと笑う錬に俺も笑顔を向ける。
お前こそ、忘れるなよと言いたかった。
錬は俺と友達なった。
制裁も怖くないとそう言いきったのは錬なのだ。
俺は一生わすれることなんてないだろう。
錬にも、あの決意を忘れないで欲しかった。
「慧?」
言葉を飲み込んだ俺を、錬が不思議そうに覗き込んだ。
「どうかしたか?」
「なんでもねえよ!」
不安な気持ちを誤魔化すように、ふざけて錬に覆いかぶさると、錬は大袈裟にギャーっ!とはしゃいで笑った。
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