Andante
決心
◆side藤堂慧◆
部屋に戻ってふわあと大きく欠伸をする。
しばらくは部活もないしゆっくり出来る。
とりあえずは夏休みの課題を終わらせたい。
……でも錬は大丈夫だろうか。
今までを見る限り勉強とかするタイプじゃなさそうだ……。
「あ、そういや外泊の許可ってどうやってとればいいんだ?」
どうするかなあと考えている俺に、錬が思い出したようにそう聞いてきた。
俺は思わず目を見開いた。
「昨日来たばっかでもう外に行くのか!?」
俺の反応を見て錬が苦笑する。
「サッカーの選抜があるんだよ。いーから教えろって」
「……寮管のとこ行って紙に色々書き込めば終わり。
いつから行くんだ?」
「行くのは地区予選の後のはずだから……次の日曜日だな。久々に大勢でサッカーするよ〜」
楽しみだ、とワクワクする錬を俺は色々と複雑な気分で見た。
色々と慌ただしい奴だなあ……。
随分早く入寮したかと思えば1週間足らずで出て行くのか……。
ピンポーン
錬が合宿に思いを馳せている所に鳴ったチャイム。
……自分でいうのも悲しいが俺に客なんてそうそう来ない。
恐らく用事があるとしたら錬だろう。
あのウェイターじゃないだろうなと訝しげに玄関へ向かう。
「誰だ?」
顔をのぞかせると、そこにいたのは。
「氷柳錬をだしてもらえるか」
「は……?」
そこにいたのは、中等部の生徒会長。
容姿端麗成績優秀、進級後も生徒会入り確実と言われている相葉時雨だった。
何で会長が……?
俺は飲み込めない事態に頭痛を感じながら奥へ戻った。
錬は突然の訪問者に好奇心を隠さずに聞いてきた。
「なー誰だった?上がってくる?俺は邪魔になるかな?」
そんな錬の矢継ぎ早な疑問をスルーし、俺は錬の客だった、とぽつり呟いた。
「へ……?」
錬は二、三回目をぱちくりさせると、思い当たる節を見つけたのかああ!と声を上げすぐさま玄関に向かう。
「まさか、錬が言ってたサッカー少年って……」
いやまさか。
でもそうとしか思えない。
俺はこんな形であの嘘かほんとか怪しい話が真実であると知ることになった。
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