Andante 晩餐5 「そういえば、ここって外出届け無いと外出れないんだろ? ずっと寮に居て暇じゃないか?」 「寮内にも小規模だけどゲーセンとか買い物できる所があるから、まあ、なんとかなってるかな」 自信満々に答える慧。 学校自体に遊び場を設けるとかやっぱりここは特殊だ。 もう学校自体がレジャーというかなんていうか……。 俺のカルチャーショックを察したのか、慧が更に詳しく話してくれる。 「ここに通ってんのはボンボンのエリートばっかだからさ。外でなんかあったら困るからこの中で事を済ませたいんだろうな」 「…………」 ……まぁ閉じ込められてもストレスにならないように配慮されてるし、いいのかな……? 「てかお前サッカーやりにきたって言ってたよな?たしか明後日都大会だぞ」 「うん。とりあえず3年が引退して高等部に合流してから混ざろうかなって」 「……そうか」 俺は中学3年の夏を捨てたのだ。 母校のサッカー部に未練はなかった。 なんせあまり良い思い出がない。 俺は幸運なことに地域の選抜に選ばれていたから、そこでの活動の方を重視していた。 あっさりそう言う俺に慧は少し引っかかったようだったけれど、何も言わずに話を進めた。 「お前、先輩には気をつけろよ。 目ぇつけられたらなにするかわからないからな、高等部の連中は」 ……何するかわからないとかこの学校じゃ洒落にならないんだけど。 「なんでそんなに警戒してんだ?」 そう聞くと、慧はなんだか渋い顔をした。 「……高等部って治安悪いんだよ。 中等部はまだ規則とか先生達が抑制力になってるけど、高等部はもうユルユルらしい」 「ええ……」 不良校ってこと? 金持ち校の筈なのにそんな事になってるなんて驚きだ。 ………………てか。 「なんでお前飯食い終わってんだよ!?」 早すぎっ! あんだけの量いつの間に食ったんだ!? 「お前がおせぇ。もう7時半だぞ」 「10分くらいしか経ってないじゃんか……! 俺まだチャーハンとアイス全然食ってないぞ……」 ラーメンも少し残ってるし、アイスに至っては食後だから来てもいない。 「残りのラーメン食ってやろうか」 ペロリと唇を舐める慧。 イケメンにしか許されない仕草だ。 かっこいい。かっこいいけど………… 「あんだけ食ってまだ足りないのか……?」 あの定食相当な量だったのに……。 軽く引きながらラーメンを慧に渡す。 俺もまだ入りそうだけどチャーハンもあるし任せた方が良さそうだ。 「うーん……足りてなくはないけど、まだ余裕で入る」 ラーメンにパクついてるから、本当に余裕のようだ。 「…………元気だなーお前」 俺も負けじと食べ進める。 ちなみにチャーハンもシンプルながら飽きのこない味付けですごいうまい。 「お待たせいたしました」 俺がちょうどチャーハンを食べ終えたタイミングで、素敵な微笑みと共にウェイターさんがデザートを運んできてくれた。 「え?」 俺が頼んだのはチョコレートアイス。 でも、ウェイターさんが俺の前に置いたのはアイスの他に盛りだくさんのフルーツが乗っていた。 写真で見た感じだとこんなに贅沢なじゃなかったと思うけど。 「あの、これ……」 頼んでないです、と言おうとすると、ウェイターさんがやんわりと微笑んできた。 「僕からのサービスです。これからがんばってくださいね」 そう言うと、ウェイターさんは去っていった。 受け取って大丈夫かなと慧を見ると、あいつはキラキラしたたれ目でアイスをみていた。 食べる気満々じゃねえか。 俺の何だけどな、と、苦笑いしながら食うかと声をかける。 「サンキュー!明日は俺がデザート奢ってやるからな」 喜んでもらえたみたいで何よりです。 笑顔でアイスに手を伸ばす慧に釣られて、俺もフッと目を細めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |