雪月花 5 だから昨日だって教科書にさらっと目を通して終わりよ? ま、それだけで点数取れる程甘いもんじゃなかったが… こうなったら今夜辺りれいんに勉強教えてもらうか? ちょっと癪だが、俺一人でやるよりは確実に効率良いはずだし。 トボトボと校門を通過しようとした時、くたびれた俺の背中に、 「ちょっと待ってよ、忍っ!」 遥か後方から声が投げかけられた。 「…」 生気のない笑顔を浮かべながら後ろを振り返る。 そこにはれいんと咲羅と神童、三人の姿があった。 なかなか珍しいスリーショットだ。 俺が振り返ったのを確認すると、連中は俺に追い付くべく小走りで移動して来る。 「もう…いくら呼んでも気付かないんだから!」 俺の元に来るや否や、咲羅は頬を膨らます。 「すまんな、色々考えてて気付かなかったよ」 最早一筋の光さえ放たない目をしながら、感情の欠片もないロボットのように、ただその文字列だけを口にする。 しかし咲羅はそんな俺の気なんて知らず声高らかに、 「ねぇねぇ忍っ!テスト初日も無事終わった事だし、皆でゲームセンターにでも行こうと思うんだけど、一緒にどう!?」 なんて言ってくれる。 これっぽっちも悪気のない、無垢な瞳を真っ直ぐ俺に向けて。 あん?ゲーセンだと? こいつぁ何を言ってる。 咲羅のセリフにもあった通り、まだ初日。明日も明後日もテストは続くんだぞ? それが一日目が終わっただけでゲーセンだ? バカかコイツらは! たかが一日目でゲーセン。 一日目でこんなんじゃ、テスト最終日が終わったらどんだけお祭り騒ぎするつもりやねん。 いや、余裕があってこそのこの行動か? 今回のこのお誘いに対する俺の返事なんて言わずもがな。 「おいおい、寝言は寝て言ってくれや。俺は何としてでも赤点を回避せにゃならんのだ。 ゲーセンならお前らだけで行きな」 シッシッと、あしらってやる。 すると咲羅は再び頬を膨らませ、 「え〜、折角の早帰りなのにぃ… 忍居ないとつまんないよぉ」 俺が居ないとつまんないって… それはそれで一緒に行くれいんと神童に失礼じゃないか? 「お前らと違ってこれっぽっちも余裕ないんだよ。金銭的にもな。 俺はこれから家に帰って少しでも多くの知識をこの出来の悪い脳ミソに詰め込まなきゃならんのだ。 判ったら去ね」 「そっか」 先に退いたのは珍しくもコイツ、神童であった。 しかし、 「まぁ良いじゃねぇか、犬神。こう言ってんだ。 俺としても残念だが、今日の所は三人で行こうぜ。 仲良くプリクラでも撮ろう、記念にさ?」 と、俺が参加するにせよしないにせよ、ノリノリである。 相変わらずじゃかぁしい奴だ。 [前へ][次へ] [戻る] |