log 溶ける想い(浮気攻め/当て馬受け/平凡受け) お前は、大丈夫だよ。 強い子だから平気、平気。へいき。 うん、俺も思う。平気だよ。 平気、へいき、へいき。 (平気。) 限界値を超えた俺の身体。って言っても外見上は全く変化無し。感情とは裏腹に笑顔なんて作っちゃってるし。無理矢理作ってる感がダダ漏れじゃないところがニクいだろ?これも18年間培ってきた賜物だよ。 「礼、止めて、言わないで、」 腰に必死に縋り付いて泣きじゃくる兄貴。 ああ普段泣かない人の涙って本当に珍しくて、綺麗だね。兄貴は顔もお人形さんみたいに綺麗だから眼から溢れる透明な涙は真珠みたいだ。 お人形さんに宝石なんて、お似合い過ぎるね。 俺はまぁ褒められた面構えはしてないし感情性豊かだって言われてるしよく笑うしよく泣くしよく怒るしよく喜ぶ。顔に出過ぎって初対面の奴にさえ軽く馬鹿にされちゃったりする。 「タイラ、悪いと思ってる。でもコイツには、メイトには俺しかいないんだ。ゴメン、ゴメン、タイラ…」 兄貴から伸ばされた両手をぎゅう、と握り返しながら俺に謝り続ける彼氏。 違う。元、彼氏。 分かるよ。 兄貴は俺と違って人見知りも酷いし、友達も親友もいない。身体は病弱だ。でも滅多に人には頼ったりなんかしないし、だからこそ頼れた日にはたまんないよね。懐かない猫が自分だけに懐いてくれた感?あれあれ。庇護欲に駆られる存在っていうのかな。それが俺の兄貴。 可愛い綺麗なオニーチャン。 俺は昔っから身体だけは強かったし顔も兄貴と違ってノッペリ平凡面だったからかな?何言われても何されてもお前は大丈夫だろ、で済まされちゃうタイプ。 まぁ実際大丈夫だったからさ。兄貴が身体弱い分、俺が吸い取っちゃったのかな?なんて引け目を感じた事もあったし。 兄貴に近付く為に利用されて、漸く近づけたと思ったら靡かない兄貴に腹立てて逆切れされて俺の事ブン殴った奴なんかもいたなぁ。 たんこぶ出来ただけだったけど。3日で治ったけど。 そう考えると、礼。 お前ってすげぇ良い奴。 兄貴目当てじゃなかったし。 …なかったよね?そう思っていいよね?だって礼優しかったし。俺と兄貴比べたりしなかったし。王子様って呼ばれてるだけあって俺にも兄貴にも平等に、紳士に接してくれたし。 雪の中二人抱き締めあってると、凄く絵になるね。 王子様な礼とお姫様な明斗。 俺はまぁ…三等兵がいいとこでしょ。真っ先に殺されるモブキャラだね。勢いだけはいい感じの。多分台詞「やってやんぜー!」これで始まりこれで終わると思う。 ハッピーエンドだよねこの絵面。 「へいき、へいき。タイラの平は平気の平…」 両親に昔から言われ続けたおまじないをこっそり呟く。 平気、平気、俺まだ平気。 「オッケー、オッケ、取りあえず食えよこれ。」 礼の家で作ろうかと思っていた鍋の具材の入ったスーパーマーケットの袋を二つ、二人の前にボスン!と置く。 重かったんだぞそれ。礼んちからスーパーって歩いて20分かかるんだから。礼はあっさりした味が好きだから野菜中心の塩ちゃんこ鍋が良いかなって思って大根に白菜に椎茸に…うんマジで重かった。 「兄貴は扁桃腺腫れやすいから早く家ん中入れてやって。喉の調子おかしいなーと思ったら直ぐに抗生物質飲ませてあげてね。病院指定のじゃないと駄目だから。あ、俺持ってるわ、ちょうど持ってる。ナイス俺。」 ママンより用意いいんじゃね?なんて軽口叩きながら鞄に入っていた4錠の薬を兄貴に…は、ちょっとまだ無理。まだ目は見れないわ。許して。 スーパーの袋に強引に入れ込むと、一瞬。ほんの一瞬だけ顔を上げる。 「……れ…」 (―礼!!) 礼、礼、礼。 色素の薄い瞳も、長い睫毛も、ちょっとだけアヒル口な口角の上がった綺麗な唇も、 「たい、…ら…」 俺を呼ぶ低くて甘い声質も。 全部全部好きだった。 (やだ、あげたくない…!!) この人を奪われたくない。いつもいつもあげてきた。駄々こねて嫌だって声を張り上げた事もあったけど内心はどこかで諦めてた。 でも礼は、この人だけは―。 「ぅ…っ」 駄目だ―感情が溢れ出してしまう。 慌てて顔を背けるとクシャミをする振りをして目を擦った。 ヤバイ、涙ってストップかかりにくい。声にならないからって目は口ほどに物を言うってマジだ。 ザクザクザク。 早足で進むと雪を踏む音が辺りに響く。 「お、で…かえるね。友達んち行く…寒いし…」 舌が回らない。駄目だ最後に、んじゃなーって空元気でもなくしかめっ面でも無いジャスト!な笑顔で振り返ってサヨナラ言わなきゃいけないのに。 「平、ごめん…」 礼の声が。 「平、ごめ…っ」 兄貴の声が。 無理だ。 「じゃね、また明日!」 顔だけは無理だから声で平気アピールしとこう。 振り返らないまま、俺は雪の道を駆け走った。 [*前へ][次へ#] |