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オジャマムシ(平凡受け/恋人奪われ話)


こほん、と咳き込む込んでいる背中。
細い腰に女子より狭い肩幅。綺麗な項に目を遣ると大きな掌が心配そうに辺りを撫でる。触れられた途端キッと歯を剥いてその手を払い除ける。猫みたいで可愛いけど…。
あー勿体無い。いいないいな、俺だったら瞳ランランと輝かせて掌握り返すのに。ギューっつって。

「あんららら?誠二君と小春ちゃん。今日休みじゃなかったっけ?」
「…小春君がサボリやめたんだろね」
「わー肩なんか組んじゃって!仲良いね、相変わらず」
「組んでないだろ。小春君は嫌がってるし。仲良いか〜?あれ、ただ誠二がひっついて行ってるだけじゃん?」
必死で指差しそこまで仲良くないでしょアピールする俺に対して友達の昴はふ、と小馬鹿にした笑みを浮かべるだけだった。

中庭を横断している二人を、4階教室窓枠から実況している俺達は怪しい奴等以外何者でもないだろう。

「つかさー、それ逆に嫌じゃね?矢印は誠二君から出てるって事ジャン。あれあーれ?誠二君の立場なんだっけ?太一の何だっけぇ?」
「勿論!もちのろん!彼氏だよ!」
「あれあれああーれぇ〜?俺小春ちゃんと誠二君が離れてる場面なんて見た事ないけど、お前と誠二君が二人っきりで居る場面も見た事ないんだけどお?」
「……うるせ…」
「あ、あるね!三人一緒にはよくいるよね〜。三人っていうかお前が二人の後を引っ付いて回ってるところだけど。」

頭の血管が切れる音がした。こいつ…!
「いだ!」
パカン!と軽い音を鳴らしながら昴の頭をひっぱ叩く。中々良い音はしたけどそこまで痛くないだろ。
「言いすぎだよ馬鹿野郎!誰が引っ付き回ってるって!?」
「いやその通りじゃん。知ってる?あの状態、なんて言うか知ってる?」
「な、なんだよ…?」
美形は友達でも慣れない。整った顔立ちに内心慌てる俺に向かってズズズっと顔を寄せ、指先を鼻の頂点へと近づけて。

「お邪魔虫、っていうんだよ〜?」
「……」
バカン!!!
「いっだああ!」
取りあえず、中身の詰まって無さそうな昴の頭を再度叩いておいた。



(お邪魔虫?お邪魔虫?…って…俺が!?)
昼休み。
いつものように2つ組の離れたクラスへと歩を進める。
誠二のクラスでは無い。小春君の居るクラスだ。誠二は休み時間毎に小春君のクラスに行くから、誠二本人を捕まえる前に小春君を探した方が早い事に気がついたのはここ最近。

「誠二ー?」
ドアを開け、教室を見渡すが二人の姿は無い。
あれ、と首と捻っていると
「あ、太一。誠二と小春ちゃん先に行ってるってー」
言付けを頼まれていたのだろうか。違うな、多分こいつが二人出て行く場面を見ていただけだろう。
誠二は俺にそこまで気が回らないから。一度昼休み終わる寸前まで二人を探してやっと見付けた!と半泣きながら喜びを顕にすると

「え?クラスの人と食べなかったの?」

なんて純粋無垢な瞳で問い返された記憶がある。

いやいやいや一緒に食べる約束してたじゃん!毎日一緒に食べるんでしょ?と詰め寄る俺に唇を尖らせながら無理矢理時間合わせるの面倒臭いし…と呟かれた。

昴なら問答無用で水平チョップ食らわしているところだ。

分かってるんだ。誠二が幼馴染である小春君の方を大切に扱っている事なんて。恋人、を名乗っている俺よりも。

「告白は誠二からなんだけどな…」
教室を出て、向かうは科学準備室。俺達三人が毎日昼ご飯を取っている場所だ。意外に穴場なんだよね。

そうそう、告白は誠二からだったんだよ。
半年前、運動会で必死に走る俺に心奪われたんだって。俺は生徒会書記である校内では知らない人なんていないであろう有名人である誠二に声を掛けられて、それだけでテンション上がってたのにその上告白なんかされちゃったらさぁ。
…オッケーしちゃうでしょ。だって格好良いんだもん!男でも憧れる長身に、割れた腹筋、日本人離れした顔立ちに反して性格は犬っぽくて可愛い。告白も俺の方が身長低いのに上目遣いだったしさ、ノックアウツ!されない方が不思議だよ。性別の壁なんてかるーく飛び越えちゃったよ。

ま、イチャイチャしたのは告白から2日後まででしたけど。その二日間も小春君から絶交を食らっていた期間だったと後から聞いて、もしかして暇つぶしだったんじゃ…なんて思っちゃいましたけど。
幼馴染の小春君の存在を知ってから俺のテンションは一気に下がった。
だって何をするにも「小春君」なんだもん。
俺は二の次。何より大事な小春君。俺がインフルエンザで教室で倒れた時も一度も保健室にだって家にだって看病に来ない誠二。電話もメールも返さない誠二。俺、必死にアピールしたのに。日頃無駄に健康体だからこんな時位しか病人アピール出来ないから必死に姑息にアピールしたのに。
後日(一週間位寝込んだっけな)、誠二にどうしてメールも電話もしてくれなかったのか問いただすと、
「小春が足首捻ってさ、よく効く湿布探してたんだよ〜」なんて満面の笑顔で返された。

俺は湿布にも良い悪いもあるもんね!と自分に言い聞かせて、その日の放課後トイレで大泣きした。

まぁ…もうこんな関係にも慣れたけどさ。
小春君のポジションを「幼馴染」だと確立させて自分自身に納得させた。うん、誠二と小春君はちょっと度が過ぎた幼馴染の関係なんだ。いつか小春君にも恋人が出来たら誠二も幼馴染離れしてくれるだろう。
ヨシ、と意気込み俺は弁当片手に科学準備室へと掛け出す。

あと数歩で教室に着くだろう、というところまで歩を進めた時、二人の話し声が聞こえる。
話し声…っていうか…泣き声?

(誰の?だれ…)
ドクン、ドクン。胸が、鼓動が激しくなる。

誰の、泣き声?

ドアに指をかけると、隙間から小春君の横顔が見えた。
小春君…っていうか―…二人の、なんだけど。

「ん、んう…ッ、」
二人の横顔、所謂、キスシーンだ。

誠二が小春君の腕を掴み、自分の腕の中に無理矢理抱き締め込んでいる形だ。
小春君は嫌だ、嫌だと首を左右に振りながら暴れている。小春君のか弱い抵抗なんて誠二にとれば子猫がじゃれているようなもんなんだろうな。ビクともしていない。

「や、や…っやだ…!」
「小春、こは…!」
「俺のモノじゃないくせに!!」

小春君の絶叫。

俺は刹那、どうして、と言葉にならない声を口から発していた。

その台詞は、君が言っていいものじゃない。
その台詞は、俺が。
(俺が言って、許されるべき台詞じゃないの?)

「俺のモノじゃないくせに!お前なんか、太一君のモノじゃないか!お前なんか、…俺、なんか…!」
「小春…」
「俺なんか最後は幼馴染じゃないか、どうやったって…恋人に、勝てない…、ッ…」
「そんな事ない、小春…っ!」
「どうしたって、俺のモノになってくれないじゃんかぁ…!!」


(だから、その台詞は―…)
見ていられない。
聞いていられなくなった俺は歩を返すと全力疾走で来た道を戻った。

ズルイ、ずるい、ズルい…!!
「は、っはっ…ハ、はぁ…〜…!ぅ、…!」
トイレ前で感情の吐露を抑え切れなくなった俺はズルズルとへたり込む。汚いけどこのトイレ人来ないから。穴場なんだよね。科学準備室に続いて穴場ナンバー2.

―もう、形振り構ってられない。
「〜〜…ッう、ああああああああああーーー!!」

号泣。
だってあの台詞は君が言って良い台詞じゃないだろう?君は名前だけ幼馴染ってだけでどんなに優遇されていたか。恋人の地位である俺より、どんなに、どんなに。

うああ、うああ、と幼稚園児の様に無様な泣き姿を晒す俺の背後に人影が出来る。



「…だから言ったじゃん。」
お邪魔虫だって。

背後から俺の首に腕を回しぎゅう、と抱き締める。
わんわんと咽び泣く俺に、昴はただ何も言わず抱き締め続けるだけだった。









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あきゅろす。
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