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雨に絆されて(土井きり)

※現パロ、いろいろあって同居中の土井きり




雨だ。ああ、なんでこんなにも不安になるんだろう。幸せが当たり前になっている。当たり前じゃないはずの幸せがそこに当然の顔してそこに佇むんだ。



だから逃げたくなるんだよ。


この幸せが消えてしまうのが怖いから。



「きりちゃん、早く帰りなよ。先生心配してるよ?」

「んー」

「きりちゃん」

「わかーったわかった!もう乱ちゃんのケチィ。…長居して悪かったな、乱太郎。帰るよ。」

乱太郎の家からでると雨は先ほどより強さを増していた。
雨といっても涼しくはないこの季節、蝉もせわしく鳴り響きなんとも言えない生温い空気が肌を湿らす。

「心配すればいいのに」
ぽつりと呟いた言霊が俺の気持ちを露わにする。

俺ももう18だ。卒業まであと迎える季節は2つだけだ。この血縁関係のない奇妙な同居生活もあと僅か。

「ただいまあ、」

ドアを開けた瞬間鼻につくその慣れ親しんだ匂いに胸が押しつぶされそうになった。雨は人を感傷的にさせるのだ。


「お、きり丸。遅かったじゃないか。メール見なかったのか?遅くなるときは」

「はいはい、電話かメールをですよね。もー土井先生は小言が多いんだからあ。あんまり過ぎると胃にきますよ〜?」

「お前が言うか!お前が!」


こんなたわいのない会話がどんなに幸せか。でも今はこの幸せが、いやずっと前から…俺の決意を鈍らせる。口に出すのは怖い。しかし言われるのはより恐ろしい。


だから俺から


「ねえ、先生」

「ん?どうかしたか?」

「俺、高校卒業したら此処を出る。」

「…きり丸、ちょっと待ちなさい」

「聞いて、先生。だって可笑しい。俺と先生は他人だよ。何時までも一緒に居てらんないっしょ」



沈黙が痛かった。
ねえ、先生。俺の話なんか聞かないで。遮って、なんか言ってよ。



「もういい歳なんだしい?恋人でもつくったらいいじゃないっすか?」


はやく、先生。

ほら、俺の言葉が自分の首を絞めて、

もう呼吸ができないよ。



「出て行きたいなら行きなさい」










「でも、私はお前をどこまでだって追いかけるよ?いい?」




涙が頬を伝った。
俺は狡い。先生がこの言葉をくれるのをどこかで期待していた。
俺なんかこんな幸せ、本当は持ち合わせてなんかいなかったはずなのに。
先生が俺に淀みなくそれを注ぐから、俺の身体は先生が注いだ温もりで満たされて、麻痺したようだ。


今なんかさ、この幸せを絶対手放してなんかやるものかって思ってる。



もう独りになんかなれませんよ。

だから

先生、覚悟してくださいね。





雨に絆されて




雨はまだ降っている。
でも雨の時でも見えないだけで太陽はいつも輝いているんだ。な、そうだろ。






0528
当たり前すぎる幸せがなによりの幸せ



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