固定概念 ※現パロ、高校生 今学校にいる人間は片手で足りるほどの人間しかいないだろう。それ位から早く来て毎日毎日朝練をするのがこの男、久々知兵助だ。その事実を知っているのもやはり片手でたりるほどの人数で、兵助が影の努力家ということを証明するには充分な事実だった。 兵助はこの努力が実りエースといえる存在になるのだが、1年の夏休み明けという早すぎる開花がその事実を認めてはくれなかった。 つまり早い話が嫉妬だ。それを敏感に感じとった兵助は周りから距離を置くようになり、より一層部活に打ち込んだ。兵助が練習をすればするほど部員とのレベルの差が開き、部員との溝も深まっていった。 嫉妬もするさ。それほどまでに弓をひく兵助の姿は綺麗だった。同性でも見惚れてしまうほどに。弓構えの位置から両拳を挙げる時の静かな動作、息をひそめ発射の時を狙う獣のような眼。どの動作も目を惹いた。俺だって嫉妬をした。 でも、それ以上にこいつに惹かれたんだ。 「兵助、おっはよーさん」 「…三郎…?おはよ」 兵助の集中が途切れた瞬間をねらって声をかけた。俺がここにいることが予想に反したようで状況が飲み込めないようだ。 「珍しいな」 「そう?」 「そうだろ。お前が朝練とかどういう風の吹きまわしだ」 「今日は雨かもな」 「お前自分で言うか」 呆れた様子で言うけれど目は笑っている。兵助は時折、チームメイトの誰にも見せない顔を俺にだけ見せる。その事実に嬉しさと悔しさがいつも込み上げる。 「練習しに来たんだよ、練習」 「ほんとか?どうせ俺の邪魔しに来たんだろ」 「ちっげーよ。まじ練習だから、お前こそ邪魔すんなよ」 そう言って踵を返し、兵助から一番離れた的場を選ぶ。その様子を怪訝そうに見ていたが、俺はその目線を無視し的に向かった。しばらくすると弓道場には音が二つ響くようになった。 「本当に練習しに来たんだな」 「だから、そう言ってんだろ」 「お前がそんな弓道が好きだとは思わなくてさ、嬉しいんだ」 「俺が弓道嫌いだなんていつ言ったよ」 「言ってないけどさ、俺に付き合わされてやってんのかと思ってたから」 練習を一通り終えた俺達は、床にだらしなく座った。兵助はそうか、と何度もつぶやきながらうなづいた。 「お前はさ、俺に対して先入観をもっていた訳だな」 「あ、いや悪い。なんか勘に触ったか?」 「いや、そうじゃないさ」 「ならいいけど」 「だからさ、先入観ってちょっとした行動なんかですぐ消えんだよ。お前が今、現に俺への評価を変えたようにさ」 「三郎?」 俺の言わんとしていることが何なのか掴めない兵助は続く言葉を急かすように俺の名を呼んだ。 「あいつらがお前に先入観をもっているように、お前も自分に先入観もってんだよ。自分みたいな奴は受け入れてもらえなくて当然だ、って決め付けてんだよ、お前は」 兵助の瞳がぐらりと揺れた。俺はそれを見逃さなかった。本心を見抜かれた兵助はそれでも俺から視線は外さなかった。その眼はやっぱり俺が好きな眼をしていた。 「お前がお前をそんは風に決めつけたりすんな、絶対に。お前の可能性をお前自身が潰すな。」 自分に固定概念つけんな。 兵助はみるみる顔を真っ赤にさせた。恥ずかしさからではなく、興奮から、だ。そんな兵助の様子に喉の奥がぎゅ、と締めつけられた。 「…やば、ちょっと待って…今の言葉嬉しすぎた」 「惚れなおしちゃった?」 「…うん、惚れなおした」 ―完全に不意打ちだった。俺まで顔が赤くなる。俺のはもちろん恥ずかしさからで。 「お前…そこはちゃんとツッコめよ…」 「あ?なんでさ?本当にそう思ったから」 「それでもそこはツッコミって決まってんだよ」 「あ?知らねえよ。そんなの」 じっと顔を見合わせて、それから二人して顔を赤くして笑った。太陽もそれを誇張するかのように輝度が増すので、眩しさから目閉じればお前の弓を引く姿が瞼の裏に映し出された。 その姿はどうしたって嫉妬するほど綺麗で、 「やっぱり惚れ直すわ」 お前を好きな自分自身が誇らしくなるほどに。 何度も、何度も。 固定概念 0915 フリリク企画で「部活動に励む姿を見て、相手に惚れ直す」でした! …が!何だか全然フリリク通りになりませんでした…すみません。とっても素敵なリクエストうまく形にできなくてすみません。リクエストくださったあさほさん、本当にありがとうございました! [*前へ][次へ#] [戻る] |