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三郎が俺を避けだした。避けるならば、と執拗に追いかけた。そしたら今度は悪態をつかれた。何だよ、もう俺とは遊ばないつもりか。いつの間にか、罪悪感よりも苛立ちが上回っていた。そしてその苛立ちを抱えたままここにやって来たという訳だ。
「ひとまず、中入れろ。きっちり話すぞ」
「入れねえよ。帰れ」
「あ?」
「お前、この前のあれ。告白だって薄々感づいてるんだろ?」
告白。言葉にされるとやけにリアルだ。そう、気付いていたんだ。だけど、三郎が忘れろと言ったことをいいことになかったことにした。このままの関係を続けるものだと思っていた。
「警戒、してください。ってことだよ。というかしろ。」
「はあ?友達に警戒する奴がどこにいんだよ。お前が忘れろっていうから」
「忘れろとは言ったが…お前まさかすぐに前みたいな関係に戻れるとは思ってないだろうな」
「戻れないのか?」
「…言っておくがな。俺は失恋したんだぞ。それなのにほいほい今まで通り過ごせるか?これだから天然は残酷でいやですねえ」
「な、なんだよそれ!俺だって数少ない友達に避けられて傷ついてんだぞ!!」
「俺は!ずっとお前が好きだったんだぞ!ずっとだ!お前が思ってるより真剣で、お前が思ってるより何倍も何倍もお前のこと好きなんだよ!」
目がかちりと合った。三郎のあまりにも真剣な目に、声に、意識が奪われた。三郎のあがった息がやたら大きく聞こえた。
「…悪い。やっぱ玄関まで入って。何もしないから」
「あ、ああ」
冷静になると、今の会話がアパート中に響き渡っていたという事実に気付き俺も三郎も恥ずかしさでいたたまれなくなった。ドアががちゃんと閉まる音を確認し、言葉を探す。自分は三郎の気持ちを全然考えてなかった。真剣な気持ちを分からないふりして、いつも通りに振る舞った。友達として最低な奴だ。
「お前がさ、俺のあの発言きいても引かずに話しかけてくれたのは嬉しかった。そっとしてくれ、とも思ったが」
「…三郎は三郎だろ。そんなすぐに態度変えられるかよ」
「でも態度があまりにも変わらなくて苛ついた。無神経にもほどがあるだろって」
「…そんな奴好きになったのはどこのどいつだよ」
言ってからすぐに失言だと気付いた。売り言葉に買い言葉とはこういうことを言うんだな、と変に冷静に分析までした。
今こいつ絶対無神経って思ってる。絶対。目を合わせる勇気はなかった。
「悪い、やっぱ今日は無理だ。帰ってくれ」
「怒らせた…よな?謝る」
「いや、違う。お前は悪くない、全部俺が悪い」
いつも自信満々な三郎がここまで頭を抱える姿を初めてみた。
三郎は優しいから忘れてくれ、と言ったけれど本当にそれでいいのだろうか。三郎は馬鹿じゃない、こうなることを十分すぎるほど理解していたに違いない。それなのに、あの日俺に告白をした。あの、誰よりも保守的な三郎が、だ。
先ほどの真剣な三郎の瞳が頭をよぎる。あんな三郎みたことなかった。真剣な想いは痛いほど伝わってしまった。もう、忘れることはきっと無理だ。
「…考えるよ、ちゃんと」
頭で結論がでるよりも早く言葉が音になった。
「…は?」
「だから、お前の気持ちしっかり受け止めて、考えてみるっつってんだよ」
「お前馬鹿か」
「そんな馬鹿を好きになったんだろ」
「お前さっきから傷えぐってんじゃねえよ」
今は俺と三郎がそういう関係になるとか考えただけで気持ち悪いけれど、
ひとまず、この大切な友人から逃げることだけはもうやめよう。そう心の中で誓った。
「今のところ、俺はお前をそういう対象では見ていない。でももうお前から逃げないで考えるから、お前はひとまず…頑張れ」
「何だそれ」
「言葉の通りだよ」
「お前正真正銘のあほだぞ」
「あほでいいよ。それ位お前との仲がこじれるのは嫌なんだ。俺だって必死なんだよ」
そう言うと三郎は急に黙りこくってしまった。あれ、俺また爆弾落とした?
「お前そういうことべらべら口にするもんじゃねえぞ、まじ。三郎くんが紳士だからいいですけどね、何されても文句言えないよ。本当」
「三郎だから言ったんだけど」
「はい、それもアウト〜。黙ってくれないかな、まじで」
そう言いながらも肩がかすかに揺れていることに気付く。笑っているみたいだ。良かった、やっと笑った。三郎の笑顔をみるのは4日ぶりだった。
「これからもよろしく、三郎」
三郎は目を丸くして、それから少し考えるかのように目線をそらした。恥ずかしがっているのだろうか、そう思い顔を覗こうとすると急に後頭部を掴まれ、引き寄せられた。
そして、そっと耳の横で
「好きになった奴がお前で良かったわ」
とささやかれた。
どうしようもない羞恥心が全身を一気に駆け巡る。そういえば、三郎は結構モテるって勘ちゃんが言ってた。
"頑張れ"なんて早まったことを言ってしまったんじゃないだろうか。
ひとまず、頬に集まる熱をひかせる方法を誰か教えてくれ。
さよなら、嘘つき
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これにて終わりです。
久々の鉢久々だったので楽しんで書けました。
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