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色を変えて(鉢雷)

※室町


「君が紫陽花を好きだとは知らなかったな」

縁側でまあ、いつものごとく考えごとをしてたら同じ顔した男に声をかけられた。お前は僕のこと何でも知ってるつもりなのかい、と聞こうとしたけれど三郎は僕より僕のこと知ってそうだ。自分で問うて自分で解決してしまった。なんだか釈然としないけれど。

「いや、最近紫陽花について本でひとつ知識を得たんだ。それでね」

「紫陽花は、七変化という異名をもつ。環境によって咲く色を変えることが由縁である、…これかい?」

自分の台詞をとられてしまった。なんで三郎は僕の言いたいことが分かったんだろう。ただただ不思議に思った。

「すごいや、よく分かったね。」

「簡単さ。最近雷蔵が熱心に読んでいた書物を私もこっそり読んだのさ。雷蔵がそんなにも熱心に読む書物に興味があったからね」

その誉めて誉めて、とでも言わんばかりの顔をするのやめてくれないかな。何故勝手に人の本読むの?とか怒れなくなる。本当に嬉しそうな顔をするんだもん。何だか僕まで頬がつい緩んでしまう。

「何がそんなに君を熱心にさせたんだい?」

ああ、そうだった。僕はそれで紫陽花を眺めていたんだ。

「紫陽花ってお前みたいだと思ってさ」

「私?」

「そう。出逢った頃は今みたいに穏やかに笑う奴じゃなかっただろ?環境がお前の色を変えたんだな、と思ってさ」

「成る程、雷蔵は私に想いを馳せながら紫陽花を見ていたんだね」

「そんな色めいた感じじゃないから。…もう!やめろよ、その顔」

三郎のだらしなく緩んだ頬にこちらの顔が赤くなる。本当に三郎が嬉しがるようなことじゃないのに、ただの考え事なのに。必死でそれを否定するのに。必死になるのが逆にそれを肯定するみたいになってしまう。ああ、悔しいな。三郎はとうとう声をだして笑い始めた。

「雷蔵」

くつくつと喉を鳴らし、堪えきれずにまた鼻で笑いを吹き出す。なんだよ、と僕は少し涙目になりながら応えた。

「その環境、の第一要因は君だよ。雷蔵。私は君と出逢ったから変わったんだ。君が私に新しい色をつけてくれたのさ」

「僕が言った環境はこの学園のことだよ」

「環境というのは場所だけではない。人も立派な環境さ。…感謝しているよ。雷蔵」

いつからお前はこんなに素直に気持ちを伝えることができるようになったんだ。いつからお前はそんなに優しい目をするようになったんだ。いつからお前はあの頃と変わったんだ。

「ら、雷蔵?顔が面白いことになっているぞ…?」

仕方ないだろ。嫉妬と羞恥とそれから認めたくないけど恋慕が混じって頭がこんがらがっているんだ。

「それなら僕の環境も第一要因はお前だよ…」

「そうかい。嬉しいな」

「でも、悪い方の要因だ…」

いつから僕は人に意地悪言うようになったんだ。いつから僕は怒鳴ったりするようになったんだ。いつから僕はお前の言うことにこんなにも心を乱されるようになったんだ。


考えてみれば、お前も僕の色を変えたんだ。


キッと睨みつけてみたけれど、お前は僕のこと僕よりきっと知っているから。上辺の言葉じゃ騙されてなんかくれないんだろ?



お前が変えた僕の色
僕が変えたお前の色

本当は認めたくないけど、どっちも綺麗な色だからやっぱりなんだか誇らしい。


そんな僕の複雑な頭の中も全部お見通し。そう何だろ。じゃなきゃそんな穏やかな顔できないもんね。


色を変えて




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あきゅろす。
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