交錯タイトロープ 2-5 その瞬間である。 真横を冷たく嘲笑する視線を向けた理子が走り抜けて行く様が、まるでスローモーションの様に映り、 「…ハッ…」 彼女が小さく鼻で笑った直後、世界は彼を置いてきぼりにした。 「え?ああ!?えええ!!」 驚愕する彼を遠くでゴミを荒らしていたカラスの鳴き声すらも、負け犬を嘲笑っているみたいに聞こえていた。 「……バカなッ……この俺が……お前なんかに……!?」 「それって典型的な悪役の台詞よね〜。しかも必ず負けるタイプの」 地面に崩れ落ちる様に倒れた恭は、呼吸を荒げたまま敗北に打ちのめされていた。そんな彼を見下ろしながら、理子は何処ぞの貴婦人の様に口元に手を当て、ホホホと優雅に勝者の笑いを上げていた。 「大体、昔ならまだしも、陸上部で毎日鍛えてるアタシと、帰宅部のアンタじゃ結果は丸見えだったでしょ?」 「……うるせぇ……男にゃ……やらなきゃいけない……戦いがあるんだよっ……」 呼吸を調えつつ、悔しそうに語る恭の目の端は僅かに潤んでいる。情けなさが倍増するので、零すまいと必死に堪えている姿に理子は呆れた。 [*←前][次→#] [戻る] |