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交錯タイトロープ
2-6
「ハイハイ。おじいちゃん受け売りの武士道は良いけどね、勝てなきゃ無意味だよ?『勝って官軍』って言葉もあるんだからさ」
そう言い、理子は玄関の扉に手を掛け、足を止める。
「余計なお世話かもしんないけど…何か悩みでもあるの?恭?」
振り向かない理子の背後で恭は息が止まりそうになる。それでも何も無い声色で恭は受け答えた。
「何…言ってんだよ。別にンなモン無い、って」



恭は元の世界に戻った、あの日を思い出していた。
正確には彼が魔女に喚ばれ、約三ヶ月もの間を過ごした日々は、元の世界に戻った時、一分も経過しておらず、彼の身体に刻まれた幾つもの戦いの痕跡も無くなっていた。
彼が必死に戦っていた時間は、まるで白昼夢であったかの様に「何も起きていなかった」のだ。
だが、恭の記憶の中には確実に体験した出来事だと認識しており、その事と現状の明らかな違いに彼は混乱した。
説明のつかない、不可思議な記憶は次第に「夢」と思い込み始め、否応なしに流れていく時間は「現実」を自覚させていく。
だが、恭は時折、夢に現れる「無かったはずの時間」にうなされる。
特にその体験の中でずっと一緒に過ごしてきた「魔女」がまるで火傷の痕の様に消える事は無かった。

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あきゅろす。
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