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テスト勉強と夏休みの宿題は一夜にして成らず





気付けば、見知った土の床に突っ伏していた。

顔を上げる。
書き物用の机とベッド、それから少しの私物だけしかない簡素な部屋。大蛇丸さんに充てがわれた、薄暗い私の部屋。

「名前、起きるんだ」

襟首を掴まれ、無理矢理立たされる。カブトくんだ。



「実験は成功のようですね、大蛇丸様」

「そうね。まだまだ課題は山積みだけれど」

部屋の中には、私のほかに2つの影。私のすぐ脇にカブト君と、そして部屋の出口を塞ぐように立っているのは……大蛇丸さん。ロウソクの灯りが、金色の瞳にちらちらと瞬いている。


「……何を、したんです?」

まだ頭がくらくらしている。これは……そうだ、前にトビ君もといマダラさんの時空間忍術に引っ張られた時の感覚に似ているんだ。

「転送忍術……いえ、これは時空間忍術と言っても差し支えないかしら」

「時空間忍術?でもそれは……」

「そう、四代目火影しか成し得なかった術。でも、名前のチャクラは少し特殊でね……」

大蛇丸さんが、空中で軽く右手を握る。すぐに開いたその手のひらには、金属製の球が1つ。
いつかカブト君に渡された、チャクラを吸収するとか言っていたアレだ。


「あなたのチャクラは、常に微弱な時空間忍術を帯びている。そこにあなたの血液、特定の術式を合わせれば……そうね、要するに、あなたを『口寄せ』できるのよ」

「………………は?」

今なんか物凄く恐ろしいことを言わなかったか。要するにそれって。


いつでもどこでも名前ちゃん呼び出し器ってことです?」

「あなたのチャクラと血液が必要、という縛りはあるけれどね」

「…………」

いずれにせよ、物凄く恐ろしいことに変わりはない。要するにそれさえあれば、私は何度でも大蛇丸さんの元へ呼び寄せられてしまうということだ。

前にカブト君に取られたチャクラと血液は、どれくらいだったっけ。
大蛇丸さんはあと何度、私を「口寄せする」ことが出来るのだろう?

暁のみんなと合流して、ようやく拓けてきたと思った道筋なのに、再び厚い暗雲が覆い隠すように思えた。



……だけど、そんな事で尻込みなんてしていられない。

「……私がこれから立ち向かわないといけないものは、きっとあなたより強大なものなんですから」


刺すように睨むカブト君の視線を無視し、ベッド脇のサイドテーブルに置いてあったそれを手に取った。
重吾くんとの戦いを潜り抜けて以来、私の相棒に任命した刀。

鞘から抜くと、冷たい刀身が煌めいた。
臨戦態勢を取ろうとしたカブト君を、大蛇丸さんが手で制す。


「意外ね。あなたは楽な方へと逃げるタイプの人間かと思っていたのだけど」

「基本、その認識で間違ってませんよ」

「苦しみたくないのなら、暁に居るのは得策ではないわよ。暁はいずれ壊滅するわ。私がそうするし、木ノ葉や他の五大国も黙っていないでしょう。ここにいれば、残酷な運命を見ずに済むのよ」

「あー、名前ちゃんはですね、テスト勉強しかり、ここで逃げると後々めっちゃしんどくなるって局面では、案外頑張っちゃったりしゃうんデスよ。……それに、暁が壊滅するなんて」


す、と息を吸う。目を背け続けてきた現実を、口にする時が遂に来た。


「……そんなの、ずっと前から知ってます。知ってたんです、みんな死んでしまうって。知っていて、見殺しにしようとしていた。だけど、だから、今度こそ!」

刀の切っ先を真っ直ぐ、大蛇丸さんへ向ける。


「私はここから出ます!邪魔をしないで下さい!」

倒せるなんて思っていない。大蛇丸さんがその気になれば、私なんて秒でやられるに決まっている。

それでも、私はやらなければならない。
目の前の敵を退けて、望んだ結末を手に入れる。そうしなければならない局面が、この先も必ず訪れる。

第2部からが正念場。今はまだ、序章に過ぎないのだから。



「だったら見せて御覧なさい。あなたの覚悟がどれほどのものか。暁のやつらがいないここでも、さっきと同じ大口が叩けるかしら?」

「ええ言ってやりますよ。私は二度と、あなたのとこには戻りません」

大蛇丸さんの余裕の笑みに、私も挑発的な笑みを返す。かなり引きつってはいるけど。これが精一杯だ。


「……大蛇丸様、この場に僕は必要ですか?」

ずっと黙っていたカブト君が、ようやく口を開いた。どうせ結果が見えているのだから、居るだけ無駄だと言いたげな態度だ。

「暁の奴らの足止めに行きましょうか」

「暁を相手にするのは、流石のお前でも無理よ。このアジトも場所が割れたんじゃあ放棄するほかないのだし、まあそう言わず付き合いなさい」

それに、と大蛇丸さんは言葉を続ける。


「私は名前を殺したいわけじゃないのよ。お前がいると、うっかり殺しかけても安心だしね」

ぞわりと悪寒が走ると同時に、大蛇丸さんの影から大蛇が襲い来る。避けることも出来るけど、この狭い室内で体勢を崩すと追撃を許しかねない。


「チクショーやってやりますよ!名前ちゃん舐めんな!」

意を決し、私は刀を構えて、大口を開けた蛇に向かって振り下ろす。薄暗い部屋に、鋭い金属音が鳴り響いた。







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あきゅろす。
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