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スタンドバイミー




「…………外だ」

夜の風が、やけに冷たかった。少し身体が火照っているのかもしれない。

「おーい名前、大丈夫かあ?」

瓦礫の向こうから、飛段が顔を出した。避けるという意識の低い飛段は、どうやら崩落をモロに食らったらしく、頭からだらだらと血を流している。

デイダラも角都も無事なようで、頭や肩の土埃をぱたぱたと払っていた。

「飛段くんの方が大丈夫じゃなさそうなんですけどそれは」

名前がついついツッコむと飛段は、俺は死なねーからなあ。などと言い、血をぬぐいながら笑う。

先程まで視界を埋め尽くしていた蛇の大群は、その殆どが瓦礫の下敷きになってしまったらしい。
ぺしゃんこを逃れた数匹も、すぐにデイダラが放った蜘蛛型爆弾の餌食になっていた。


「これで全部か…………うん?」

辺りを見回したデイダラが、遠くに何かを見付けたらしく、嫌そうな顔をしながらも手を上げて合図をする。

「ま、流石にこれだけ派手にやりゃ居場所も分かるか、うん」


ぼやくデイダラの隣に、ヒュッと砂埃が舞った。

「随分と派手にやったな。あくまで隠密ではなかったのか?」

落ち着いた声。真っ黒なシルエット。

「角都の判断だ。もう隠密の必要もなかったからな、うん」

「こちらの用は済んだので問題はないが、お前たちの方は……」

名前を視認すると、紅い目が細められる。
その瞳からは、何の感情も読み取れなかった。初めて会った時と同じ、暗くて鋭い紅。


「……イタチ兄さ、」

名前さーーーんお久しぶりっすねえ!」

物凄い勢いで抱きつかれ、ぐえっとカエルのような声が名前から漏れ出た。

「いやーーーーほんっと久しぶりっす!1年ぶりくらい?」

嬉しくない再会すぎると、思い切り渋い顔をする名前など気にしない様子で、トビは名前を撫でくりまわす。

「もーーー名前さんがいない間、辛気臭くって死にそうだったっすよーーーー」

「そうっすかーーーいっそ死ねばよかったんじゃないっすかねーーー」

「またまたーーー名前さんったらーーぐえぶ」

今度はトビから、カエルのような声が出た。デイダラの蹴りが脇腹にヒットしたらしい。

「トビィ!てめえどうやら殺されたいらしいな、うん!」

「あはは、デイダラ先輩ったら名前さんのこととなると目の色変えちゃうんだからぁ」

「喝!」

トビが吹き飛んでいった。

ようやくうるさいのから解放されたと息をつき、名前は視線を元に戻した。


「イタチ兄さん、お元気でした?」

「……ああ」

素っ気ない返事が懐かしい。
再会したら多分真っ先に抱きつこうとして避けられて、いつもみたいに呆れられるんだろうなと思っていたのに、何故だかそんな気は起きなかった。

イタチが「自分を探す任務に就いていた」ことに思い至り、名前はニンマリと笑う。自分を連れ戻すのはオマケ程度だとデイダラは言っていたが、それでも。

「へへ、また会えて嬉しいです」

イタチは、それには応えなかった。ただ名前のニヤケ顔につられたのか、少しだけ口角を上げた。


「で、サソリさんとか鮫さんはいないんデスか?てっきり皆さん来てて別行動してるものかと」

「余り人員を割くわけにはいかないからな。それよりも……」

イタチは、素早く周囲に視線を走らせ不審げに眉間にしわを寄せる。瓦礫、瓦礫、そして蛇の死骸。それ以外に、特に目立ったものはない。

「……大蛇丸と交戦していたんじゃないのか?」

「いや……」

蛇の生き残りをちまちまと殺していた角都が、ひと段落したらしく口を挟んだ。

「大蛇丸とは一度も出くわしていない」

「妙だな」

訝しげなイタチの呟きに、名前は頷いて同意を示す。確かに妙だ。

これだけ派手にアジトを壊したというのに、大蛇丸はもちろん、カブトすら駆けつけてこない。
そもそもカブトは、最初の爆発の時点で名前より先に現場に向かったはずだった。一体どこに行ったというのか。



「……嫌な予感がします。早く逃げません?」

今この瞬間も、あの蛇のような黄金色の瞳が首筋を狙っているような気がした。
暁のメンバーと合流したのだから安全なはずなのに、どうにも落ち着かない。これは罠なんじゃないかという嫌な考えが頭をかすめる。

「名前の言う通りだ」

賛同したのは、イタチ。鬼鮫がいれば「名前にしてはまともなことを言いますね」などという嫌味が飛んで来たのかも知れないが、イタチ1人だとそんなこともない。

「早急に離脱した方が良い。罠の可能性が……」

「罠というより、実験ね」

ねっとりした声が唐突に会話に割り込み、その場に緊張が走った。デイダラが咄嗟に名前に駆け寄る。

名前たちから少し離れた瓦礫の上で、千切れた蛇の死骸が寄り集まり蠢いていた。
やがてそれは、名前にとってはもはやよく見知った男の姿を取る。

「私の書斎、随分と荒らしてくれたみたいね。天下の暁がコソ泥の真似事とは、恐れ入ったわ」

「分かっていて手出しをしてこないとは、三代目火影によほど手酷くやられたと見える」

イタチの挑発に、大蛇丸は苦々しげに表情を歪めた。
かつて辛酸を舐めさせられた相手に図星を突かれるというのは、さしもの大蛇丸にとっても余り良い気はしないらしい。


「ふ……口の減らないこと。まあ良い、情報くらいならくれてやるわ。ただ……」

大蛇丸の細い指が、名前を指差す。

「それは、返してもらうわよ」

「ふざけんな!名前は渡さねえし、お前はここでぶっ殺す!うん!」

デイダラが、名前を庇うように前に出るが、そんなデイダラを大蛇丸は一笑に付す。

「どれ程わめこうと、私はあなたより名前を知り尽くしているし、取り返すのも簡単なのよ」

「ちょっと待ったァ!」


今までデイダラの背中で小さくなっていた名前が、ついに声を上げた。

「本人無視してなーーーに勝手なこと言ってんデスか!私は二度と、あなたのとこには戻りませんからね!」

「ふふ、自分に選択権があるとでも思っているのかしら?」

「へ?あ、えっ?」

名前の視界がぐにゃりと歪む。一瞬幻術かとも思ったが、そうではないらしい。名前を取り囲む全てーー空間そのものが、いびつに歪んでいた。

「馬鹿な、時空間忍術だと…!」

イタチが驚愕の声を上げる。
あり得ない。大蛇丸の部屋で見付けた書類では、時空間忍術はまだ未完成の筈だった。

「さあ名前、私の元へいらっしゃい……」

大蛇丸の囁きと共に、空間の歪みが激しくなり、名前の身体もその歪みの中心へと引きずられてゆく。


「や、やだ……っイタチ兄さん、デイダラくん…!」

助けを求めるように無我夢中で伸ばした手に、温かな何かが触れた。



「名前!」

「デイダラくん……」

空間の狭間に飲まれようとしている名前を引き戻そうと、触れた指に指を絡め、折れそうな程に強く握る。それに応えるように、名前もまたデイダラの手を握り返す。

同時に、ひときわ大きく空間が歪んだ。


「名前、行くな!」

次の瞬間。名前の身体は質量を失い、強く繋いでいた筈のデイダラの手は、虚しく空を掴んでいた。






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あきゅろす。
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