虹蛇 6p 天谷雨喬は一人、落ち込んでいた。 教室には天谷以外はまだだれ一人としていない。 天谷は机に座り、窓の曇った景色を見ながら憂鬱な心の原因について考えた。 天谷の憂鬱の原因は昨日のクラスメイトとのやり取りの事だった。 隣の席の彼にいきなりホームルームで突然名前を出された時はビックリした。 そして、帰りに彼を捕まえて話した時も。 (クラスメイトの名前を覚えてないとか、やっぱりだめなのかな) 天谷は深いため息をつく。 天谷は人間関係を築く事に酷く不器用であった。 それは、天谷自身のせいだけでなく、天谷の家庭環境における部分も多く関係しているが、他人はそれを理解はしてくれない。 天谷は一人でその問題に立ち向かっていくしかない。 (あいつの名前、何て言うんだろう) 天谷は隣の席に視線を移す。 空いたその席は天谷の疑問には答えてはくれない。 (う、やばい、何か、頭痛くなって来た) 天谷は両目を瞑り、机に頭を伏せた。 「お、何だ、俺が一番乗りかと思ったら、天谷か」 呑気な声が天谷の耳に入った。 天谷はゆっくり体を上げる。 彼だ。 隣の席の……。 彼は天谷に近づくと、「おはよう」と言った。 天谷は目を瞬かせる。 天谷は戸惑い顔で、「おはよう」と言った。 「お前、早いのな。いつもこんなに早い訳?」 一体どういうつもりなのか、昨日、揉めた事が嘘みたいに、彼は何事も無かったかの様に話しかけてくる。 「えっと、あ、うん。大体一番に教室に来るけど」 「そか、お前って見た目通り真面目な奴なのな」 「そうかな」 とりあえず答える天谷に対して彼は不通に会話をする。 (なんか、こいつ、昨日とは別人みたい) 妙な感じに天谷の心はざわついた。 「なあ、お前、ちゃんと朝飯食って来た?」 彼はそう言って天谷の顔を覗き込んだ。 そして彼は顔を歪める。 「なぁ、天谷、もしかして具合良くない? 顔色悪いぞ」 「ん、なんか、少し頭痛くて」 「マジかよ」 彼は手を天谷の額に当てた。 天谷は突然触れられた事と、彼の手の冷たさにびくりと体を震わせる。 「少し熱いな。保健室行くぜ」 「え、別にいいよ」 「良いから行くぞ」 彼は天谷の手を引いて席から立たせる。 天谷は彼に手を引かれたまま教室を出た。 (え、これ、どういう状況? 頭がぼんやりしてなにも考えられない) 天谷は狼狽えるが、しかし、彼は全く平気な風だ。 人通りのまばらな校舎の中を、天谷と彼は進む。 時折、彼の知り合いらしき生徒が彼に話しかけてくる。 「キャー、なぁに、二人、手ぇ繋いでどこ行くのよ」 「いいトコだよ。邪魔すんなよ」 「はは、バカぁ」 「後でな」 「え、どうしたんだよ、お前、男同士で手なんか繋いで」 「んんー、コイツ、具合悪いんだってさ。保健室連れてくんよ」 「そか、先生には俺から言っとくわ」 「お、よろー」 彼は人と話す時、ずっと笑っている。 昨日天谷と話した時はにこりともしなかった癖に。 [*前へ][次へ#] [戻る] |