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虹蛇
7p
「なんか、凄いな」
 天谷が言うと、彼が、「何が?」と言う。
「人間関係ちゃんとしててさ。さっきの、皆友達?」
「うん、まぁ、そうだったり、そうじゃなかったり」
「ふーん」
「さてと、着いたぜ」
 彼は目の前の保健室の扉を勢いよく開けた。
 うるさく開いた扉に、中にいた若い女の養護教諭の北原が睨みを効かせた。
「ちょっと、保健室の扉は静かに開けなさいよ……って、小宮か。どうした?」
 北原の台詞に天谷はドキリとした。
(こみや……コイツの名前)
 天谷は彼の、小宮の顔を見る。
 小宮は、天谷と目が合うと、「ん?」と不思議そうな顔をした。
「小宮、ちょっと、それ、何よ。手なんて繋いじゃって。保健室に何しに来たのよ……って、相手が男じゃなかったら説教だったわよ」
 北原は天谷と小宮の繋がれた手に熱い視線を送りながら可笑しそうに言った。
「先生、男同士で保健室にナニしに来るのはダメなんですかぁ。差別はいかんね」
 小宮がへらへらしながら言うと、北原は爆笑した。
「ははっ、小宮、あんた、その子とそういう関係な訳かぁ」

 小宮と北原が話すのを天谷はぼんやりする頭で訊いていた。
 
「先生、冗談。コイツ、具合悪いみたいで連れて来たんよ。頭痛いんだって。なんか熱っぽいんよ」
「そうなの? あなた、えっと、名前は?」
「あ、天谷です。天谷雨喬です。二年六組の」
「そう、あなた、天谷君、こっちに来て、熱測りましょう」
 扉の入り口に小宮と立ったままでいる天谷を北原が手招きで呼び寄せる。
 天谷はふらふらした足取りで北原の側によると、北原に勧められるままに椅子に座り、制服のボタンを外して体温計を脇の下に挟み込んだ。
「小宮は教室に戻って」
 北原がそう言うと、小宮は首を横に振った。
「ん、そいつが寝たら教室に行くよ」
「は、何よ、それ」
 北原がいぶかしげな顔をすると、小宮は静かに「そいつに話があるから」と言う。
 北原は、ふぅん、と頷いて、思い出したように「私、職員室に行ってくるから、天谷君、熱測ったら寝てなさいね。寝てれば少しは良くなるでしょう。小宮、天谷君が寝たら教室帰んのよ」と、そう言ってニヤニヤと笑顔を浮かべて保健室を出ていった。

「気の利く先生だな」
 小宮は北原が出て行った扉を見ながら感心したように言う。
「あ、あの。俺に話って何?」
 訊かれて小宮は扉から天谷へ視線を移す。
「あーっ、話ね。それより、熱、どうだった?」
「え、熱」
 天谷はそう言えばと体温計を脇の下から外して見て見る。
「三十七度だって」
「微熱だな、ベッドで横になれよ。連れてってやろうか」
「自分で行けるから大丈夫だよ」
 天谷は椅子から立ち上がると二台あるベッドを交互に見てから窓側にある方のベッドへ向かって進んだ。
 天谷の足取りは危うくて、ついによろめいてしまう。
 転びそうになる天谷を小宮が支えた。
 小宮に支えられて、天谷は一瞬の浮遊感を味わう。
「危ないな。ベッドまで連れてってやるから」
 小宮にそう言われて、天谷はしょげたように眉を下げる。
「ごめん」
「謝るなよ。ほら、直ぐそこだから」
 小宮は天谷の手を握る。
 その手を、天谷は遠慮がちに握り返す。
 ベッドまで小宮に手を引かれている間は、天谷はふわふわした感覚に陥っていた。
(きっと、久しぶりに他人と、ちゃんと話したからだ)
 天谷は小宮と繋いでいる自分の手が緊張で少し汗ばんでいるのを感じた。
 天谷は急に怖くなる。
 不安な顔で天谷は自分の手を引く小宮の横顔を見る。
 その顔には何の表情も浮かんでいなかった。


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あきゅろす。
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