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オレンジ信号機

 夏夫と“うっちゃん”と愉快な仲間達には、年齢が違う者もいた。
多くは未就学児−年下の幼子だが、時々面倒を見てくれる年上の少年も幾人かばかりいた。
遠い学校へ通っているという彼らは、休みの日限定の友人だった。
知らない遊びを持ってきてくれる年上というものは、存在するだけで人気を独占するものだ。
うっちゃんはそんな彼と夏夫達を結ぶパイプのようになっていた。

「きょうはあめだから、せんぱいのおうちでゲームするぞ!」
「トランプ?ウノ?」
「ぼく、むずかしいのわかるかな……」

心配そうに、それでも遊び事とあらば興味津々なちびっ子を前に、お兄さん面をした一つ年上の人物は優しい。

「大丈夫、だちゃんと分かるまで、教える……」
「ほんと?それならがんばる!」

尻尾を振らん勢いで喜ぶ夏夫に、無口そうな少年は一生懸命説明をする。
犯人が誰かを当てるというシンプルなボードゲームだったが、コツをつかんでからの夏夫はすっかり夢中になってしまっていた。

「なっちゃんがすっかりとけこんであんしんだ」
「そうですか?わたしはまだしんぱいですね」

外野から何かを言われれば、優しいお兄さんがしっしと追い払ってくれる。

「夏夫くん、また一緒に……遊ぼう」
「うん、よろしくね!」

結局夏夫が離れる事となりその後ほとんど会う事もなかったが、大切な思い出の一つだった。

 「まさか会長も副会長も生徒会全員が昔会った事あるなんて知ったら、東江驚きでしぬんじゃないっすかね」
「さぁ、どうでしょう……私達は接点なかったですから、ね」

だから尚更邪魔だと思うんですが。
吐き捨てるように話を打ち切られて仁神は苦笑するしかない。
それにしても会長は相変わらず幼い頃から変わっていないというのに気づかれないのは、さすがに少し可哀想だと思った。

「……内原さんとか小峰が変わりすぎなんっすね!」
「にかみんが一番変わったんじゃないですか?そんな性格じゃなかったでしょう、貴方」

おっと、何でも深堀りしようとしてくるのは先輩の悪い癖っすよ。
仁神は人差し指を立てて自らの口元に当てる。

「イノウェイ先輩だってその黄緑ヘア、イメチェンしすぎじゃないすか」
「ガーガンチュアングリーングレープ色ですよ」
「長っ!!色の名前なんてそんな重要じゃないっしょ……」

見た目が変われば、性格が変われば。
記憶の中から消されてしまうものなのか。
騙されてしまえるものなのか。
人間なんて単純なものだから、だからこそ過ちを犯してしまえば命取りになるのだ。

「平井洋介くらいじゃないっすか、ずっと変わらないのなんて」
「洋介はいつだって素ですからね」
「……先輩、それ自分とか小峰や内原さんがやってる事をディスってんすか」
「そんな滅相もない。私は端から見ていて楽しんでるだけですよ」
「それ一番タチ悪いヤツ!」

人は成長する。変わっていく。
それを受け入れられないから、ずっと“自分”を保ち続けてそばに居続ける。
それも一つの選択肢だったのかも知れない−と仁神は思った。

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あきゅろす。
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