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オレンジ信号機

 三〇四号室の夕食は当番制である。
それは小峰弦が東江に“種明かし”をするまでの間は継続されており、この日は東江が作る決まりとなっていた。
寮に隣接しているマーケットで二人並んで買い物をして、それから部屋に戻って調理を開始。
小峰のリクエストで甘口のカレーを作る事になった東江は、タマネギを炒めながらその日あった事を報告する。

「なんか内原が変な事言ってたんだよね」
「ああ、授業一緒だったんだ?」
「うん−っていうか今更だけど内原の話してもいい?」
「気を使わなくてもいいよ、あいつ何て?」
「うーん、“幼なじみは一人じゃない”みたいな事をね」
当たり前なのに、何言ってるんだろう。
ふと口にしてみればますます謎は深まるばかりだ。
しかし背後のソファに腰を下ろした小峰は存外分からないと言う事もないようで、ふぅん、と小さく呟いた後テレビの電源を入れた。
このままでは気まずくなってしまうと思った東江は、慌てて話を変える。

「あ、と、授業は卓球だったんだけど、うっちゃんは何のスポーツが好き?」
「ハンドボール」
「ああ、あのシュートがかっこいい奴か」
「うん、昔話したじゃん……覚えてない?」

言われてみれば、確かに覚えがある。
あの時は、珍しい遊びがしたいと話していて、ハンドボールのルールを教えて貰ったんだっけ。
うっちゃんの話を、僕ともう二人の少年がやけに真剣に聞いていたな、と東江は頷いた。

「うっちゃん、ハンドボール部だったもんね、愚問だったねごめん」
「いえいえ、リュウジもいるしね、部活は退屈しないよ。なっちゃんも来る?」
「お言葉に甘えて、今度見学してみようかな」

本人は覚えていないみたいだから言わないけど。
ぼそりと一気に言うものだから、これ以上は追求するなという意味か。
そう言えば、幼なじみの彼らの中に、そんな名前の子がいた気がする。

(内原が言っていたのは、この事だったのかも)
自分のふがいなさを反省しながら、野菜の灰汁をとる。
小峰好みの甘ったるいカレーは、胸焼けのするような味わいで、いつまでも舌に残っているような気さえしてくる。

「うっちゃんは、なんでマネージャーにしたの?」
「んー、何でだろう一番近くで試合が見られるからかな」

本当に運動をするのが嫌いで、それでも応援するのは好きで、だからこその裏方なのだ。
自信満々に言われると、東江もマネージャーに興味がわいてくる。すぐに人に影響されるのが、東江の悪い癖だった。
そしてそこに付け入ろうとする人物がいる事に気が付かない迂闊さが、いつだって落とし穴なのだ。

 少しの真実を交えれば、嘘も真実味を増してくる。
だから自分の記憶にすら偽りを添えるのだ。
全て張り替えられた写真を前に、仁神龍治は小さくため息をついた。

(本当に、自分を含めた身の周りが泥沼化してきているっすよね……なっちゃん)

思い出せない一年間だけの幼なじみと、嘘をつく自分達。
この先どうなってしまうかなんて、サイコロを振ったって分かる訳がないのだった。

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