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オレンジ信号機

 これは、親友が転校してくるよりももっと前の、入学してしばらくたった頃のお話。
何て事はない、日常のワンシーンの一つ。

 マンモスを越えてモンスター級の教室数ともなると、体育などの授業も合同になる事が多い。
教師が名簿順にランダムにペアを組ませ卓球をする事になったその日、東江はその相手となる人物を前に唖然とした。
出席番号1番同士で組まされたその人は、オレンジ色の独特のパーマ姿でやけに目立つ。

「内原が普通に授業に出てる……!」
「あのさ、俺一応生徒会の人間だからな」
「分かってる、冗談だよ」

ラケットを手にして、教師が宣告するルールを確認する。
試合ではないのでひとまずはラリーが続くなるようになろうとの事だった。

「内原は見かけによらず真面目なんだよね」
っと。一言余計に付け足して球を投じる。
パカン、と軽快な音を立てて内原は打ち返す。
「普通にしてるだけだどな」
「普通の生徒は、中等部で生徒会長、やらないって!」
危うく台から落としそうになりながら東江は相手側へと押し返す。
「止めろよ、照れんだろ」
「うっちゃんに聞いたけど、生徒会長になるのって大変らしいじゃん?」
「……」

テンポよく進んでいたラリーが一瞬で止まる−内原が手を止めてしまったからだ。

「会長になれば、あいつらに追いつけると思ったからな」
「あいつらって?そう言えば、生徒会って内原以外は皆上級生だよね」
「俺よりダメダメな上級生だけどな」
「先輩なのにそういう事言っていいの?」

先ほどまでの雰囲気はなんだったのか、一気にラリーの速度が速まり東江はついていくのに精一杯になる。

「春夫は何で、この学校来たんだ、っけ」
「内原に関係ないだろっ」
「だって外部から受験すんなんて、珍しい、だろっ」
息も付かせぬスピードでお互い打ち返す。
平井以外には確かに話した事がなかったとぼんやり重いながら、東江は速度をさらに上げた。

「うっちゃん−幼なじみに、会いにきたんだよ」
「何年も会ってなかったっていう奴?」
「何で知ってんの?」
「あー……小峰が言ってたからな」

嫌っている筈なのに、あいつには関わるなとまで言っていたにも関わらず。
東江の知らない所では、小峰と内原は意外と会話もするのかも知れない。
特に気にも留めず東江は肯定する事にした。

「そいつはお前のなんなんだ、よっと」
「だ、大事な人、かな!」
「ふは、何顔真っ赤にしてんだよ」

不意に内原が噴き出して。
今度こそラリーが中断される。二人ともすっかり呼吸が乱れていた。

「アイツに近づくなら、これだけは忘れんな」
「うわ、ちょっと何すんだよ」
一歩二歩と近づいてきたと思えば、乱暴に髪の毛を撫でつけられて。
自らの長い髪が目の前でちかちか揺れる。その向こう側に、内原の砕けた表情が見える。

「お前の幼なじみは、一人だけじゃなかったって事をな」
東江はその言葉を、相当後になって思い出す事になる。
どんな意図で語られたかどうかは、この時の東江は、知る由もない。

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あきゅろす。
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