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オレンジ信号機

 平井洋介(ひらいようすけ)と言えば、先刻も自ら宣告した通り仁神とはあまり接点のない相手だ。
高等部の入学も終わり一通りのイベントが落ち着いた6月頃に突如として編入してきたかと思えば、そのあからさまなカツラ姿で話題になっていたようだ。
それも、先日の一件以降取りやめにしたようで、地毛だという金髪を惜しみなく晒しだしている。

「しかもあの大手インテリア系会社のご子息とか……自分、天は二物を与えずって言葉はウソだと思ったすね」
「洋介はちょっと昔の知り合いなんですけどね、っふふ、昔からいい子でしたねぇ……」
あれ、もしかしてこの人東江がアウトになったらもう一度平井にアタックをするつもりなのか。
余計な話を始めてしまったと後悔しながらも、仁神は話を続ける。

「うーん、中学までは一般の学校に行ってたんすよねだから結構俗っぽい事が好きだとか?」
「一人部屋なのをいい事にゲームとかおもちゃがやたら豊富なんですよね。私もしばしば遊ばせていただいております」
「ゲーム、って自分はやる機会ないんすけどどんなのっすか?」
「ボードゲームは勿論の事、テレビゲームのプラットホームはほぼ全て揃っていました」
「お金にモノを言わせやがって……!」
「にかみん、それはこの学校の80%がやっている事ですよ」

諫められると自分がおかしいような気がしてくるから困る。
知っている人からすればそのジャンル名だけで想像がつくのだろうが、仁神の頭の中では“ボードゲーム”は、スケートボードとスノーボードで殴り合うものとして浮かびあがっている。

「東江はインドアの割にゲームとかは興味ないみたいです」
「ああ……そうなんですか」
仁神にとっては至極どうでも良い話だが、適当に相づちをうっておく。
「洋介は下手な鉄砲数打ちゃ当たると思って、沢山集めたみたいですね……はぁ、健気で可愛いらしい」
(あ、違うこの人単に平井萌えなだけか)
この学園に染められてはいるものの限りなく一般人思考に近い仁神に萌えは分からない。
それでも何となくこれがそうである事は察しの通りだ。

 「平井って地毛であんなピカピカの髪なんっすか」
「はい、確かご両親のどちらかが外国の方だったとお聞きした事がございます。お会いした事はありませんが……」
「羨ましいっすよね」

井上は染めているのか明るい黄緑色の髪をしていて、平井と並ぶとバランスが良く見える。成績と人気さえあれば注意されないものなのかと風紀が心配になるレベルではあるが。
対して自分は味けない黒髪で、特筆するとすれば内原を真似て無造作ヘアもどきにいじっているくらいなのだ。
それは嘆きたくもなるさ、と仁神は一人呟く。

「髪髪って、やっぱり貴方私の事責めてますね?」
「当たり前じゃないっすか。誰か一人でも東江に敵対する人が必要なら、先輩にだって必要っしょ?」

“一生恨む”その意味をしっかりと受け止めて貰わなければ、今回の件は償われないのだから。
青ざめる井上を尻目に、仁神は満足そうに笑った。

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