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オレンジ信号機

 市立第三中学校は全校クラス9つ、つまり各学年が3クラスずつしかない極めて小さな学校である。
そんな場所に、学区外にも関わらず平井洋介が通っている理由は、他ならぬとある人物のためであるのだが、本人はそれを知らない。

「ヨースケ!今年も同じクラスだったね」
「夏夫は俺が居ないと駄目だからな〜感謝してくれ」
「何でヨースケにお礼言わなきゃなんだよ!」

とは言ったものの、居なければいけないという点では事実なので夏夫は否定はしない。
クラス替えで周りが一新されたとしても、唯一話の分かる相手さえいればそれだけで救いがあるのだ。
それが、他とのコミュニケーションをどんどん遠ざけていく原因になるとも考えずに。

「そういえばヨースケって、何でその名前になったんだっけ」
「太平洋を通じて世界に介入するの略」

平井の鉄板のギャグ、名付け親である祖父の物真似は今日も快調だ。
一度つぼに入ってしまうと何度もみてしまいたくなるのが、人間の性だった。

 そんな友人が、二年生になって急に休みがちになったとする。
普通は心配もするだろうが、夏夫は当初、家の事情か何かだと決めつけていた。
だからこそ、時々学校へ顔を出した時は、甘やかさん勢いで平井にくっついていた。

「夏夫くっつきすぎ。うざい」
「ヨースケが寂しくないように気を使ってあげてるんですぅ〜」
「違うだろー夏夫が俺分充電してんだろー」
「そうとも言うかな」

それが余計に増長させたのか否かではないが、徐々に平井は学校から足が遠のいていき、一番仲の良かった夏夫は担任にプリントを任されるようになっていた。

(ヨースケの家ってなんだか気軽に行けない場所なんだけどな)
そこまできてようやく、平井が何かおかしいような気がしてきたのだ。
家まで会いに行けば大抵は、いる。いない時でも召使いさんが相手をしてくれる。
山の上にある豪邸は、息子の親友をハードに歓迎してくれるのだ。

 「ねぇ、ヨースケ何かあった?」
「何かって?」
「最近学校来ないから……いじめられたりとか、してない?」

平井がいじめられる姿など一切想像出来ないが、夏夫はそれでも心配させて欲しかった。

「それを言うなら夏夫もあるんじゃないのか」
「僕が?至っていつも通りだけど」
「……そうかよ」

ふてくされたように平井は目を反らして、それきり夏夫に理由を話す事はついぞなかった。
三年になり受験シーズンになれば、あっさりと来るようになったもので夏夫も追求するのをやめてしまったのだ。

「−俺に助けを求めてよ」
「ヨースケ、何か困ってるの?」
「違うだろ……困ってるのはお前だろ〜そんな成績で本当にあのおぼっちゃま校に入れると思ってんのか?」
「ヨースケには言われたくないぞ!この万年追試ボケ!」

何気ない会話で終わらせようとしても、もう嫌だとでも言うかのように頭をかかえてしまった親友に、夏夫も困惑する。
このすれ違いを、もっと早く解決出来ていれば、こじれる事もなかった筈なのに。

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あきゅろす。
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