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オレンジ信号機

 どうしてここまで内原哲也(うちはらてつや)仁神の心を掴んで放さないかと言えば、それは中等部の頃に遡る。
ハンドボール部でなかなか思うように成績をのばす事が出来ず、部長や副部長から揶揄されていた時の事、たまたま見学に来ていたのが当時の同室者−内原だったのだ。
元々はクラスでもあまり話さないレベルの知り合いだった筈の彼らだったが、同じ部屋で暮らしていくうちに少しずつ打ち解け、普通の友好関係を築いていた。のだが。

「駄目になったら叩くだけしか能がないんっすか。一緒にどこが駄目か考えて解決した方がよっぽど低コストだと思うんすけど」

それは、別に仁神の為を思って言った訳ではなく、本当に無駄な事をしていると思ったから事した発言だっただろう。
しかしそれでも、仁神がそこに救いを見いだした事は確かであるし、たったその一言が“一生ついていこう”と信じるに値するものだった。

 「−あのですね、にかみん」
そこまで回想しているのに、横やりが入って止められてしまう。
「この話、もしかして毎日私にするつもりですか?」
そう、これは仁神にとっては“鉄板”の話なのである。

 内原哲也はいわゆる高校デビューである。と言っても中等部から高等部にあがるにあたって、心機一転髪型を変えたくらいだが。

「あれって結局理由はアガリエナツオなんですよね」
「……原因の一つではあるでしょうね」

彼の事だから、どこかで東江が入学してくると知って慌てて髪を染めたに違いない。
漆黒のさらりとしたそれは、癖の強いウェーブがかったパーマになってしまっていたのだから。

「自分の好み的には黒髪だがオレンジもイイッす!」
「男が好みなんですか……」
「この学校にいてそんな顔するのは先輩くらいっす」

というか先輩の方がよっぽど質が悪い。
それは誰の目に見ても周知の事実であったが、仁神は答えてやるつもりはない。
その代わり、井上の方が詳しいであろう内原情報をもっと配信してやる事にした。

「内原さんも割と背が高い方っすよね」
「小峰には負けますがね。洋介と同じくらいでしょうか」
「東江が少し低いから一緒にいるとやけに高く見えるんっすね」

あがりえ、と仁神が口にした瞬間、ガラスが割れたようにその場に沈黙が訪れる。
先ほど自らその名を言うのは何ともなかったのに、自分以外では駄目だと言うのか。
(これで好意が一切ないっていうからこの人の怖い所っすね……)

「えー、内原さんは誕生日が1月8日なんすよね。誕生花はスミレだったような」
「まぁ誕生花もいくつかありますけどね。小峰は4月2日でトゥルーエイプリルなんですよ。嘘つきなのに、おかしいですよね」
「そうそう。自分ほとんど接点ないんすけど、平井君っていつなんっすか?」
「5月の−いつでしたか、11日あたりだった気がします」
もうすでに興味はうせ始めているのか、ぼんやりと井上は指折り数えているようだ。
そりゃあんなにあからさまに一人しか見えていない奴に執着したって仕方がないものな、と仁神は頷きたくなった。

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