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オレンジ信号機

 仁神少年は実は裕福な家庭でも成績が優秀な訳でもない。
いわゆるスポーツ推薦で進学してきた彼は、ハンドボール部の部員をしていたりする。

(だからこの前の制裁も、参加というか止められなかったんすよね)
そして実のところ、この部活動にはたった一人、マネージャーがついていたりするのだ。

「今日もコーチが車の遅延をしているので、自主練していて下さいって」
ノートパソコンを片手に暢気にそう告げるのは、小峰弦(こみねげん)だ。
ダークブラウンのショトヘアを後ろでハーフアップにしているのがトレードマークで、前髪はパッツンだ。自分でそろえているのだろうか?
生まれも育ちもインドア派というオーラを全面に押し出している彼が、何故運動系の部活、しかもハンドボール部のマネージャーなのかは仁神には分からないが、彼もまた今回の被害者の一人なのではないかと感じていた。

(だってあの前後からむっちゃくちゃ不機嫌なんすもん!)
元来おっとりしたタイプだと思っていたが、どうやらはそれは仮の姿であったらしい。
やけにピリピリとした態度でつっかかってくると思えば、その表情の方が今までに比べずいぶんと素に近い様子だったのである。

考えてもみて欲しい。身長180センチ近くの体格(マネージャー)がお怒りなのだ。
並大抵の人物なら波風立てずに済ませたいと思うだろう。
だから仁神も、そっとしておく事にした。
時々、同室者に内緒でその人の親友の部屋に遊びに行ったり、内原の親衛隊の一人に声をかけて遊んでいたりするようだが、仁神の知った事ではないのだ。

「ちゃんとマネージャーしてくれるんなら関係ない」
これが結論だった。内原にぞんざいな態度を今後とるようであれば、何かをしてしまうかも知れないが。

そうなのだ。誰も理由までは存じていないが、目に見えて分かる程小峰は内原の事を毛嫌いしていた。

廊下ですれ違えば舌打ちをするし、平井の部屋に行って先にいれば“いないもの”として扱っているらしい。
これは生徒会長の弁であり主観的ではないのだが、まぁ、何となく仁神も想像は出来る。

「そう考えると結構邪魔な奴だな……」
思わず、ぽつりと本音が出てしまい、目の前の井上は首を傾げている。
慌てて否定すると、興味を失ったかのように目をそらされた。
仁神は内原に関して言えば自分を見失いかける事がことさら多い。
憧れこそあれそこには恋愛感情など一ミリもないのだが、それでも幸せになって欲しいと思う一人ではあった。

「にかみんだって大概執着しいですよね」
「イノウェイ先輩にはぜってー言われたくないっす」
自分には執着してくれないくせに。
言外にそう含ませたつもりだったが、彼には正確に伝わったかどうか。

「小峰弦は甘い物が好きらしいですよ」
「なンすかそれ。どこ情報!?」
そんなちょっとどうでも良さそうな情報を勿体ぶった表情で言うものだから、つい仁神も乗ってしまう。

「哲也が甘い物嫌いなんで、どうせ反対だろうなと思っただけです」
「あ、なるほど……」
内原の名前を出されれば大人しくなるのが仁神の癖である。

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あきゅろす。
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