10 放課後、歩香は教室に残って日誌を書いていた。年に数回しか回ってこないが、日直の仕事は面倒くさい。学級委員でもないのにクラスのことを見なければいけないとは何事か。 「やっと終わった……」 書き終えた日誌を閉じ、ため息をつく。 教室にはもう歩香しか残っていなかった。いつもならもう帰っている時間なので、見慣れない教室の色に新鮮味と違和感を覚える。 微かに聞こえる、運動部の掛け声、野球部の金属バットの音、吹奏楽の音楽。 音はあるのに静かだ、と思い、席を立った途端、 「あ、アユカちゃんまだいたー!」 教室の入り口から顔を覗かせた人物が行った。 それは間違いなく、平井雪都だった。 「なんで……」 今更来ないだろうと思っていた歩香が呟くと、雪都はにこにこ笑いながらずかずかと入り込んできた。 「だって今日一回も会ってないじゃん」 まるで毎日会うのが当然のように言い放つ。歩香は顔をしかめ、帰り支度を始めた。 「あ、もう帰る?」 「……職員室に寄ってからですけど」 無愛想に答える。いい加減愛想を尽かしてくれたらいいのに。 [*back][next#] |