9
「どうして」
「なんとなく」
綾の答えに眉を寄せて、歩香は再び日誌に視線を落とした。もう四限の内容まで進んだ。
「ま、いいけど。てか平井先輩ほんと来ないね。何かあったのかな?」
「だから、諦めたんでしょ」
呆れたように言うとチャイムが鳴った。皆が席に着いていく中で、綾も自分の席に戻った。
確かに珍しいなと思った。
もしかしたら、昨日突き放したことで完全に諦めがついたのかもしれない。あの後バス停にもついてこなかったし。
でもそんなことはどうでもよかった。諦めてくれたならよし、綾の言う通り、何かあったにしても歩香には関係ない。
だが、そう思うのに、歩香の頭には、あの傘の色がこびり付いて離れなかった。
「……関係ないわよ」
一人呟いて、手早く日誌を書き終えると、歩香は授業の用意をはじめた。
いつもより静かだな、とぼんやり思った。
その日の授業が全部終わっても、歩香の前に雪都が現れることはなかった。
平和な日々が戻ってきたことにほっとしながらも、いつもと違う日にどこか違和感を覚えた。
[*back][next#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!