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「どうして」

「なんとなく」


 綾の答えに眉を寄せて、歩香は再び日誌に視線を落とした。もう四限の内容まで進んだ。


「ま、いいけど。てか平井先輩ほんと来ないね。何かあったのかな?」

「だから、諦めたんでしょ」


 呆れたように言うとチャイムが鳴った。皆が席に着いていく中で、綾も自分の席に戻った。

 確かに珍しいなと思った。

 もしかしたら、昨日突き放したことで完全に諦めがついたのかもしれない。あの後バス停にもついてこなかったし。

 でもそんなことはどうでもよかった。諦めてくれたならよし、綾の言う通り、何かあったにしても歩香には関係ない。

 だが、そう思うのに、歩香の頭には、あの傘の色がこびり付いて離れなかった。


「……関係ないわよ」


 一人呟いて、手早く日誌を書き終えると、歩香は授業の用意をはじめた。

 いつもより静かだな、とぼんやり思った。





 その日の授業が全部終わっても、歩香の前に雪都が現れることはなかった。

 平和な日々が戻ってきたことにほっとしながらも、いつもと違う日にどこか違和感を覚えた。

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