3 綾はふふっと笑うと「アテレコ」と答えた。 確かに綾の言葉は歩香の心を代弁していたが、その口調は何故かブリッコだった。ふざけ半分としか思えない。 歩香の眉が複雑に歪む。 「まぁまぁ。そんなわけなんで、先輩早く帰った方がいいですよ?」 綾がにっこり笑いながら言うと、雪都もにっこり笑う。ちょっとした女ならこの悩殺スマイルで落とせるだろうに、雪都は歩香に執着して離れない。 「やだ。俺アユカちゃんと一緒にいたい」 「だから、私は一緒にいたくないって言ってんでしょうが」 苛立ちを顕にして睨み付ける。だが雪都にはそんなものは通用しなかった。 「怒ってるアユカちゃんも可愛いね!」 ぐしゃ。 歩香の手の中で焼きそばパンが潰れる。 「とっとと帰れ、このどアホ!!」 強烈な右ストレート(焼きそばパン付き)が雪都の顔面を直撃した。 歩香はそのままベランダを後にする。 「だから言ったのに」 焼きそばまみれになった雪都を見ながら、綾は呟いた。 [*back][next#] |