帝王院高等学校
風呂敷片手にいらっしゃいませ
その毅然とした後ろ姿は世界に溶け込んでいた。まるで太陽を喪失した宵闇の様に。
狗は密やかに嗤う。



「おー、…王様がこんな所まで足を運ぶなんてねーぇ」

大きめのサングラス、長いダークレッドの髪を無造作に編み込んだ男が、揶揄めいた笑みを零した。

「やっぱ、我が子の成長にはあの王様も興味があるのかしらねぇ」
「社長、迎えが参りました」
「あら、もうそんな時間?嫌ねぇ、こんな日くらい一日オフにして欲しいわ…あら?」

レザージャケットにヴィンテージジーンズと言う出で立ちの長身が、不似合いな言葉遣いで煙草を取り出し、緩く首を傾げる。
向こうに見えるスーツ姿の渋い色男に見覚えがあったらしい。



「おーい、ヒマワリちゃぁん!向日葵ちゃぁん!アタシよ〜、レイよ〜!」
「しゃ、社長」

隣の秘書が呆れた様な声で宥めるが、指輪だらけの右手でサングラスを外した彼はシナを作りながら小走りに走っていく。
振り向いたスーツ姿の男は目に見えて不機嫌になり、切れ長の目に獰猛な光を宿した。



「…嵯峨崎、誰が私の名を連呼しろと言ったんだ」
「やだぁ、マフィアみたいな顔しちゃって☆かっわいいんだからぁ、向日葵ちゃん」
「テメェ!組長に失礼だろうが!」
「親父が高坂組長だと判って意気がってんのかコラ、死ねや!」

スーツ姿の渋い色男に付き従っていた数人が飛び掛かり、秘書が蒼白な表情で顔を隠す。
殴られる様な音が短く響き、静寂した途端恐る恐る手を離した秘書はその光景に天を仰いだ。





「社長が、またやってしまった…」
「ぐ、」
「ち、ちくしょ、う」
「あっはっはっ、嫌だわこの坊や達。アタシがただのオジサンだって舐めてるの?」

オジサンと言う割には二十代そこそこにしか見えない男は、蹴り付けた三十そこそこの男達の背に座り胡坐を掻く。
下から響いてくる罵詈雑言を綺麗さっぱり無視し、地に倒れた男達の尻をつつつと撫で上げた。

「「ぎゃ」」
「うふふ、二人共、締まった良い形ねーぇ。でもお尻の形ならうちのゼロの方が断然セクシーよ、アタシに似て☆」
「嵯峨崎、その馬鹿達は私の息子だ。…親の顔に免じてくれんか」
「えぇ?どうしよ〜かな〜、向日葵ちゃんが可愛く『お願いしますレイちゃん』って言うならアタシも、」
「社長!好い加減になさらないと、クリス様に報告しますからね!」
「え!」

揶揄めいた笑みが消える。
がーっと叫んだ秘書に、三つ編みを揺らしながら男達の上から飛び退いた男は痙き攣る笑みを零し、立ち上がった男達が睨み据えてくるのにも構わずサングラスを外した。

「だ、駄目よ!今日アタシがファーストの始業式に参列してる事ハニーは知らないの!無断外出したなんてバレたら、お仕置きされちゃうわ!」
「いいえ!もう我慢の限界ですっ。仕事は山の様にあると言うのにサボってばかり、接待ゴルフに個人セスナで乗り付けたり…!」
「し、仕事の事は謝るけど、セスナはアタシの車みたいなものじゃない!アタシが飛行機好きだって知ってるでしょ?!
  だから航空会社始めたのよアタシは!」

ガミガミ言い合う二人に呆れたスーツ姿の男は、そのまま踵を返しちらちら後ろを窺いながら付いてくる付き人二人を見やる。



「命拾いしたな、テメェら」
「お、親父ぃ、あのオカマ野郎何なんですか?」
「手ぇ抜いてんのに、あっしら二人負かしちまいましたよ。タダモンじゃねぇや」
「嵯峨崎嶺一、SGSエアラインの代表取締役にして嵯峨崎財閥会長だ」

眼を丸くした二人に息を吐き、

「そして、グレアムの飼い犬」
「グレアムっつったら、最強マフィアじゃねぇっスか」
「ひぇ、じゃあ今の奴も同業って訳ですかい」
「奴は意識してねぇだろうがな、立派なアメリカンマフィアだ」
「よ、良かった、負けてて良かったですや。勝ってたら抗争になってやした…すいません親父」
「然し、嵯峨崎の頭があんな若い奴なんて…」
「若いだぁ…?嵯峨崎は俺の6つ上だぞ」
「「はぁ?!」」

スーツ姿の男が忌々しげに吐き捨てた言葉で二人は眼を見開き、



「で、でも、親父は確か今年45歳だったでしょ?」
「アイツぁ、どう見積ったって三十手前にしか…」
「馬鹿か、奴は50の更年期ジジイだぞ」
「…組長」
「親父…」

老けてる、と言う台詞を飲み込んだ筈の二人は、然しスーツ姿の男から殴られた。

「チッ、頭の中身が幼児だと、いつまでも年喰わねぇんだろ。めでてぇこった」

声もなく痛がる二人には見向きもせず、先程から点滅を繰り返している携帯をメキっと握り壊し、



「ヴィーゼンバーグの野郎、この俺に喧嘩仕掛けるたぁ好い度胸じゃねぇか…」
「親父、手が!」
「喧しいっ、このくらいどうって事ぁ、」
「姐さんにまた怒られますよ!」

ピシッ、と硬直した一見五十代半ばに見える男前は、ギギギと言う音が聞こえてきそうなほど動き悪く首を回した。


「然も今日は姐さんと懐石食いに行かれるんでしょ?」
「ただでさえ浮気してねぇか毎日携帯チェック入ってるんスから、こんな木っ端微塵にしちまったら何勘ぐられるか…」
「ぐ…」
「日向坊っちゃんの写メ撮って来いって言われてたのに、SDが無事だと良いっスね…」
「…親父、後先考えないから」

三人は暫し粉々に砕けた携帯電話を見つめ、



「…け、携帯ショップに寄って、全く同じ機種を仕入れて帰る。今見た事は私達だけの秘密だ、良いな?」
「も、勿論ですや」
「言ったらあっしらまで吊されちまいますから…」

















純愛小説が好きだと言う彼は物珍しげに煌びやかな本棚を見つめ、片やゲームなら何でも好きだと言う彼は眼を輝かせてチェストを覗き込んでいる。


「『旦那様と愛の流星群』…タイトルから素敵ですぅ」
「旦那様は実業家で独占欲凄くてハァハァしますっ!オススメシリーズですっ」
「俊、こっちは?『蒼き黄昏の花嫁』って奴」
「異世界トリップもののBLにょ。異世界の皇帝と騎士がたっぷりにょ!にゃんこが可愛いにょ!」

桜がパラパラBL小説を開き、太陽がダッシュで取りに行った自分のプレステを早速起動させる。
二人がそれぞれ読書にゲームに夢中になると、懸賞で当たったパソコンを起動させ眼鏡を外した。
ペン立てに突き刺していたヘアクリップで前髪を上げ、一つ息を吐く。


「…ほう、今日は何処も更新ラッシュだな」

自宅に居る時と同じ無意識下の独り言を零し、目にも止まらない右手ブラインドタッチでネットチェックした。
左手にはキノコとキティちゃんが揺れる携帯、萌は携帯サイトにもてんこ盛りだ。

「む。コメ103件、ピナイチよりイチピナの方が人気だな…ん?フーピナ?………ハァハァ、流石常連のエロ仮面さん、目の付け所が違うにょ!」

日参サイトにラブカキコ、自サイト更新にメールチェック。
最近はずっとパソコンメールを携帯に転送させていたが、うっかり充電が切れていた間に着信した分を改めて確認し、左手の携帯がバイブしたのに首を傾げた。



新着メール1件


「あ」

見覚えがあるアドレスに目を丸くし、パソコンから離した右手で携帯を握り変えた。

「カイちゃんからのお返事にょ」

何とも簡潔なメールには、絵文字所か顔文字すら入っていない。
昨今の高校生らしからぬ黒メールっぷりにやや肩を落とし、手早く返信して文末にデコメを付けた。黒メール相手には徐々に慣らしていかねばなるまい。

「ユーヤンのメールより酷いにょ」

然も『ティアーズキャノンに慣れるまでは一人で出歩くな』などと言う、意味不明な文章で締められている。



「桜餅、ティアーズキャノンってなァに?」

速読らしい桜が本棚から別の本を取り出しているのを認め、きょとりと首を傾げた。
振り向いた桜はただでさえ丸い目を益々丸くし、目に見えて顔を赤らめる。

「と、と、遠野、く、ん」
「桜餅?」
「精悍なお顔を出しちゃ駄目ですぅ!」
「むぎゅ」

だーっと駆け寄ってきた桜がぎゅむんと抱き付いてきた。抱き締め殺されそうになりながら、温かい体温にぐりぐり頬擦りすれば、太陽の呆れた咳払い一つ。



「俊、前髪」
「ふぇ。あ、忘れてたにょ」

ヘアクリップを外し、腐男子生活を始めてから一度も切っていない前髪を元に戻す。
途端に離れた桜はまだ頬が赤かったが、ローテーブルとクッションが並べられたインドチックな敷物の上にヘナヘナと腰を下ろし、プレステを取りに行った際、太陽が仕入れてきたオレンジジュースに口を付けた。


「はぅ、遠野君のお侍様みたいなお顔はぁ、帝王院じゃ危ないと思ぅ」
「ふぇ?あにょ、僕いきなりチワワに襲い掛かったりしないにょ。えっと、ちゃんと告白してれば無理矢理エッチもOKですっ!」
「強姦は有罪だよ。無理矢理されて喜ぶ奴なんか居ない」

黒縁眼鏡をカチューシャ代わりにしていた太陽が酷く酷薄な表情で囁き、実家から運び込んだポテチの袋に片手を突っ込んだ俊が目をパチパチさせた。

「山田君、あの時の事まだ忘れてないんだねぇ」
「ふぇ?」
「いっそ忘れられたら対人恐怖症もマシになるんだろうけどなー」
「あんなお馬鹿さん達なんて、忘れられたら良いと思うんだぁ。僕も流石にさっきはマズいかなぁって思ったけどぉ、もぅ忘れちゃったぁ」
「ふぇ?ふぇ?ふぇ?」
「安部河って何か想像と違うキャラ。もっとこう、おっとりしてて天然だと思ってたけどー…」
「お金持ちと不良さんしか居ない帝王院でポヤポヤしてると騙されるってぇ、一昨年卒業した兄さんが言ってたからぁ」

二人の会話に着いていけない俊が膝を抱え、リストラサラリーマンの様な寂れた風体でポテチを噛る。
苦笑した太陽が開きっぱなしのクローゼットに気付き、目を見開いた。


「俊、あの衣装は何?」
「コス衣装です…」
「不貞腐れてないで、…で、あっちの凄いヤンキーチックな服は何?」
「普段着です…」

宥める様に背中に抱き付いてきた太陽に萌えつつ、拗ねた振りをするオタクは背中に太陽を引っ付けたまま立ち上がり、コス衣装だらけのクローゼットの隣、俊には不似合いな服ばかり吊られたハンガーストックを引き出す。
キャスターがコロコロフローリングを転がり、目を輝かせた桜も立ち上がった。

「うわぁ、これってヴィンテージって奴じゃない?セイちゃんもこう言うデニム持ってたなぁ」
「ダメージジーンズとか俺、買った事もないよー。このデザインシャツ格好良いじゃん!」
「あっ、このジャケット素敵ですぅ。えっとお、カルマ…って書いてある?」
「あ、本当だ。こっちにも色違いのジャケットがあるよー」

ショッピングに来た高校生の様にハンガーごとジャケットを体に当てる二人をデジカメに収め、無表情でハァハァしている俊と言えば、

「そっちの水色は桜餅に、そっちの赤いのはタイヨーにあげるなり」
「えぇ?!良いんですかぁ?」
「ちょ、高いだろ、これ!」
「カナタが株主になってる会社に毎月作って貰ってる奴だから、まだ一杯あるし」
「カナタってぇ、誰ですかぁ?」
「錦織君の事だろ?確か機関投資家だったね、錦織君」

株式投資が趣味だと言う要は今や青年実業家だ。稼ぐ金額は隼人よりも多いだろう。
今やトップクラスのモデルだろうが、仕事の選り好みをする隼人は受ける数が少ない。

「ハヤタは一気に稼ぐ派で、カナタは地道に稼ぐ派なり。で、イチが地道に一気にココ掘れワンワン
「やっぱり紅蓮の君はワンちゃんなんですかぁ?カルマは皆ワンちゃんなんですかぁ?」
「イチ先輩の家って、嵯峨崎財閥だろー?レストランとかリゾート開発とかも聞いた事あるけど、やっぱSGSがいっちゃん有名だよなー」
「SGS?」

きょとりと首を傾げた俊に、ジャケットへ腕を通した桜が驚いた様な表情を晒した。

「だから俊ってば面白いな」

へらっと笑った太陽が空いた紙袋を掘り出してジャケットを仕舞い、大切そうにソファ脇へ置いて、窮屈なのかブレザーを脱ぎ捨てる。



「嵯峨崎エアライン、ドメスティックよりパシフィックの方が多いから、海外旅行行った事ないと知らないかもねー」
「あにょ、パスポート持ってないにょ」
「作っておいた方が良いよ、社会見学にイタリアまで行く学校だから」
「一応、父さんが手続きしとくって言ってたなりん。…僕のプレステ勝手に借りパクして出張行ったけど」

何処までもマイペースな両親を思い浮べたらしい俊は、無意識に眉間へ皺を寄せた。
罪の無い桜が青冷め俯き、同じく青冷めながらも慣れてきたらしい太陽が痙き攣る笑みを浮かべる。

「俊、眉間にサンペイです」
「ふぇ?ぷはーんにょーん、ポテチが無くなったァ」
「あ、ごめんなさい。半分僕が食べちゃったぁ」
「次はコンソメ味にょ。ビックパックにするなり、パーティー開きで!」

勉強机の引き出しからポテチを取り出した俊に、勉強机の引き出しにはゲームソフトしか入れていない太陽が肩を落とし、一言。

「クローゼットのカラーボックスにも、…何だかインスタントラーメンとかお菓子が見えるんだけどなー」
「九州醤油味も美味しいですよねぇ!僕、毎月お取り寄せしてるんですぅ」
「のり塩も外せないにょ!ハァハァ、徹夜原稿執筆には欠かせないおやつにょ!あ、ポッキーもあるなり。桜餅食べる?」
「わぁい、緑のポッキー大好きですぅ」

女の子のパジャマパーティーの様な光景に、そんなもの見た事も無い上に佑壱のハンバーグで未だ満腹の太陽は、上がってくる胃液を耐えつつ少し離れたクッションに座った様だ。
しゅばっと立ち上がった俊がコーラのペットボトルを片手に戻ってくると、早速宴が始まった。

「僕ぅ、ダイエットコーラ初めて飲みますぅ」
「美味しいにょ!ペプシよりゼロが美味しいにょ!」
「つか、俊のご両親ってどう言う人なの?」

俊が差し出してくるグラスを断り、オレンジジュースをちびちび舐めながら首を傾げた。

「お母さんは僕が生まれるまでお医者さんの卵だったんだって。えっと、死んだ祖父ちゃんがお医者さんだったにょ。で、父さんがしがないサラリーマンかしら?」
「じゃ、お母さんのお家がお金持ちなんですねぇ」
「どうかしら?えっと、僕が小学校に入るまで祖父ちゃん達には会えなかったから、良く判んないにょ」
「何で?あ、お父さんの転勤で離れた所に住んでたとか?俺も昔は良く引っ越ししてたし」
「違うにょ。うちは9区で、祖父ちゃん達は4区に住んでたにょ」
「近いじゃんか。じゃあ、もしかして…」
「駆け落ちですかぁ?」

桜の台詞に太陽が口を閉ざしたが、ポッキーを見つめハァハァしている怪しいオタクはそれ所ではないらしい。



「ポッキーゲームで迫るクラスの人気者…!ハァハァ、嫌なのに周りが囃し立てて逃げられない平凡受け!



『ほら、ちゃんと噛ってかないと終わらないよ?』
『わ、判ってるよ!』
『別に、男同士なんだから気にする事じゃねぇし?』
『だ、誰が気にしてるって?!早くしろよ、口が止まってんぞっ』
『えー、だったらお前が噛って来いよ。別に俺は逃げも隠れもしないし?…気にしてないなら、平気だよな?』
『当然だろ!』


  そして最後の一口で抱き寄せられて、皆の前で熱烈チュー!ハァハァ、嫌なのに膝がガクガクでうっかり腰抜けかしら?!」


一通り叫びまくるオタクに生暖かい眼差しを注ぐ太陽は、付けたままのプレステをセーブし切った。
ほんのり頬を染めた桜はぽつり、

「ボーイッシュなヒロインですぅ。素敵な殿方に恋して、これから蝶に変身していくサナギなんだねぇ」
「安部河、君が天然で良かったんだか良くないんだか、」

太陽の台詞に被って、インターフォンが鳴る。未だ妄想から抜けられない二人を尻目に小走りでドアを開けた太陽は、目の前一杯に映り込んだ唐草模様の風呂敷包みに硬直した。


「遠野俊様ですね。ご両親よりお預かり致しました」
「え、あ、いや」
「一応、受け取りのサインを頂けますか?」

何だかとても奇妙な表情をしたフロントのコンシェルジュに首を傾げ、俊を呼ぼうと振り返れば、素顔全開の俊がすぐ後ろに立っていた。

「びっくりした。俊、荷物受け取りのサイン、」
「天皇陛下!」

太陽の背後で驚愕を顕にした叫びが響き、訝しげに目を細める俊を横目に再び振り返る。
片膝を付いたコンシェルジュが目を見開いたまま、太陽ではなく俊を見つめて口をパクパクさせているのに腰が引けた。

「な、何事?」
「ああ、あの時のままお変わりになられていない…!私は初等部ではありましたが、陛下のお顔を忘れた事はありません!」
「…悪いが、人違いの様だな。サインが必要なら、これで良かろう」

怯む太陽を庇う様に一歩前へ出た俊が、握り締めていた三文判で受け取り書に捺印する。どうやらコンシェルジュに人見知りしているらしいが、無表情がやや歪んで極悪顔に拍車が掛かっているではないか。
自覚しているのか胸ポケットに引っ掛けていた黒縁眼鏡を掛けながら、


「…ご苦労様でした」
「恐れながら!」

そのまま風呂敷片手に踵を返そうとした俊の肩を掴み、縋る様に身を乗り出してきたコンシェルジュに、ちょこりと戸口から覗いていた桜が目を丸くした。


「天皇陛下!いや、皇子の君!何故帝王院をお捨てになられたのですか?!」
「ちょ、ちょっと待って下さい、俊は今日入寮したばかりの帝君で、」
「薄汚い手を離せ」



俊には到底似合わない台詞だと思った。
けれど人見知りしている俊が低く落とした声に、その声音はそっくりだったのだ。





「帝君への無礼は厳罰対象であると、…知らぬ訳ではあるまい?」

腰が抜けた。
背後の桜が手にしたグラスを落とすのが判る。
呆然と振り返るコンシェルジュの表情が青冷め、眼鏡を押し上げた俊が小さく笑む。






「何のご用ですか、神帝陛下。」

←いやん(*)(#)ばかん→
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