[携帯モード] [URL送信]

SS置場3
バイト6 L

しばらく前に書いてたのにUPするのが遅れていました。バイトの続きです。エロは全く無し。
バイトシリーズでエロが無いのは反則かなぁ・・・









「ロー!」
入り口から事務所の中を覗いた途端、バン(通称)がにこやかな顔で手を上げた
にやりと口元に笑みを敷いたローは くい、と顎を引いて出てこいと呼ぶ
元々自分はただの学生。
知人であるバンに用があって訪問する事はあっても、基本的に中に足を踏み入れる事は無い

「元気そうじゃねぇか、この詐欺師」
事務所を出て、飲み物の自動販売機のあるラウンジへと移動しながらの挨拶代わりの軽口のジャブ。
「人聞き悪いな。俺がそうなら、そういうおまえも立派に詐欺師だろ」
せめて策士と呼んでくれない? と目を細めて笑うバンは どこから見ても入院中の怪我人には見えない
「大学じゃ避けまくってたから何も言われてないけど、心配してたぜ? キャス」
バンが投入したお金で珈琲を選択しながらキャスケットの様子を教えてやる
勿論、キャスケットが自分の大学の後輩だということはとっくに話してあった
「ん。そぉ? いい子だよね、キャスケット。」
嘘ついちゃって悪いね、とバンはその場に居ない相手に向かって謝った
だが、友人であるローを引き込む為の口実は、実のところバンが考えたものじゃない
「でもさ、口から出任せ言ったのっておまえじゃないか」
出てきた珈琲をローに手渡しながら、おかげで暫くキャスケットに会いそうな場所には行けない、とバンは苦笑を浮かべている
「俺に任せるっつったろ」
最初にローにこの話が来た時点で引き受けるつもりは全くなかった
面白そうではあるが、バンの事務所絡みというのが気に入らなくて その子の顔を拝むつもりすら無かったくらいだ。


"絶対ローの好みだから!一度見てみろよ"
バンがやけに自信を持って そう断言するものだから、一度見るだけ見てみるかと思ったら
画面の中にいたのは よく知る後輩だったというわけだ。
「あぁ、確かに、おもしれぇ」
にやりと笑ったローが漏らした一人言は、画面に夢中の他の客には聞こえなかったことだろう。
その素直な反応が面白くて大学でもことある毎にからかっていた後輩が こんな顔を持っていたとは意外だな、と
考えたローはバンの思惑に乗ることにした


「おまえもうしばらく入院してろ」
「ん・・・、そうだな。 まぁ、まだ抱いてねぇもんな、おまえ。」
ローの指示にあっさりと同意を示したバンの頭の中では、そのうち3Pにでも持ち込む算段を踏んでいるに違いない。
まぁ、そっちの方もまだだが・・・というローの不穏な言葉に眉を潜めたバンが 「おい、まさか落とすつもりじゃねぇだろな」と
真顔で詰め寄るが、落としたところで文句ねぇだろがと笑ってやると相手はやれやれと肩を竦めた。
ローの我が儘には慣れている友人は、逆らっても無駄だと身に染みて知っている
「後でやりにくくなるんだよなぁ・・・」 とぼやいてはいるが、好きな相手が出来たところでキャスケットは無責任に
バイトを止めると言い出すような性格じゃない。
結局の所、バンは ローが好きなように行動するのを認めて 当分の間部屋には行かないと約束した





「よぉ、キャs――」
構内で見掛けて声を掛けたローは 今回もやっぱり最後まで言う前に猛ダッシュでやってきた "キャスケット" に口を塞がれた

「だから!その名前で呼ばないで下さいって!!」
はぁはぁと肩で息をする後輩は 怒りか焦りか はたまたその両方からか、真っ赤な顔でローを怒鳴った
「おまえがまた避けるそぶりをみせるから」
おまえのせいだろ、と指摘してやると 後輩は さっぱりな手ごたえに全身の力が抜けたらしい
あのねぇ、と力の抜けた声を出して、
「こんな事になって顔を合わせるのが恥ずかしいっていう俺の気持ちも汲んで下さいよ」
そう言って、情けなさそうにへにゃりと眉尻を下げた
あまりにも脱力しているものだから いつもの元気な顔を引き出そうと意地の悪い声を出す
「気にするな。別に大学でおまえのあんな姿やこんな姿を思い出したりしてねぇから」
言った途端、"キャスケット" は飛び上がりそうな勢いで顔を上げ、 ぎゃ――!!! と騒がしい悲鳴を上げる。
ぎゃぁぎゃぁと喚いて聞き取り辛いが "先輩、止めて下さい、ホントにっ" というような事を叫んでいるようだ
「まぁ、落ち着けよ。奢ってやるから飯喰おうぜ」
そういって引っ張れば、絶賛混乱中の後輩は大人しく従う事にしたらしい
"奢ってくんなくていいですから ああいう事言うのやめて下さい" とブツブツ文句を零しながらも彼はローの後を着いて歩き出した
(こういう反応見せられちゃ、からかうのも止めらんねぇよなぁ)
そう思いながら 分かった分かったと適当に答えてよしよしと頭を撫でてやれば
「全然分かってないし!」
ぷくっと頬を膨らませて そっぽを向くのに、足は大人しく前に進めているのだから こいつの素直さは本物だ。
親の居ない環境のくせに甘やかされ慣れてるのは周りの友人に恵まれていたのだろう
(今すぐ喰うのは、惜しい)
なんとなく、そんな事を思わせる雰囲気の子だ、と興味深く観察する
「今週も抱かないでやるから心配すんな」
安心させるつもりで言ってやれば、折あしくコップに口をつけていた"キャスケット" は目を剥いた後、ゲホゲホと噎せ始めた
口に含んだ飲み物を噴き出すのを無理に堪えた拍子に気管かどこかに入ったらしい。
咳き込みすぎて潤んだ目で睨んでくる後輩を まぁまぁと宥めて、1/3まで減ったコップにビールを注ぎ足す
「あっ、あ!そんなに、いりませんてば!」
「ばぁか、俺と来て酒が断れると思うな」
飯喰うだけっつったのに!
そう文句を言いたげな相手に構わず、機嫌の良いローは次々と酒を飲ませていく
アルコールで赤味を増していくキャスケットの目元を何気なく指でなぞれば、ぎょっとしたように逃げる仕草が小憎らしい
何気ない行動だっただけに内心むっとしたのが自分でも分かった
勿論、顔になんか出しやしない
代わりに さり気なくペースを早め、良い感じに酔いの回ってきた後輩に手を伸ばせば今度は全く抵抗がない
「むりれす、せんぱい。もうのめまひぇん」
呂律の回らない後輩がそう言って机に突っ伏して眠るまで、ローは "いつもの自分" を演じきった








「う、・・・・ん〜〜〜」
喉が渇いて目が覚めたキャスケットは、重たい頭を片手で押さえて呻いた
酒に灼けた喉が水分を欲しているのだけど全身が重くて起き上がる気力が出ない
(飲み過ぎた・・・)
昨日は やけに機嫌の良い先輩にお酌されて 断りきれずに杯を重ねすぎてしまった
(断るに断れないんだもん、今日が講義の無い日で良かった)
自分から香るお酒の臭いですら気分が悪くなりそうで、極力、そぉっと寝返りを打つ
意識が戻ってみれば横を向いた姿勢よりも仰向けの方が体が楽だ
ごろりと上を向いて、まだ目を開ける気にならないまま 時間を確認しようとシーツの上を手で探る。
多分どこかその辺りに携帯が転がっているはず・・・と伸ばした手が、何か温かい物に触れた

(え?)
触れた瞬間、思考と同時に停止したキャスケットの手が、何かに掴まれる
(何かって、何かって、そんなの 人の手でしかありえないんだけど!)
「っひゃぁ!?」
ちゅ、と自分の手に柔らかいものが触れた
どう考えたって、これは誰かの唇。
このところの経験で その唇が次に動く先の予想が付いてしまうのが我ながら残念だ
「や、やめ、ましょう、先輩っ!」
瞬時に頭に浮かんだのは昨夜一緒に飲んでいたローの顔で、酔いつぶれた自分を連れ帰ったのは彼だろう。
慌てて 名を呼びながら ぐいと腕を引いたのに掴んだ手の力は意外と強い
手首から腕へと辿ってくる唇を避けきれなくて、飛び起きようとして、ズキンと頭痛に見舞われたキャスケットは
そのままぱたりとシーツの上に逆戻りしてしまった
柔らかいクッションの効いたベッドなのに その衝撃だけで一気に気持ち悪さが込み上げて、「う、」と慌てて口を押さえる。
ぎゅっと目を瞑って吐き気を遣り過ごしていると、くすくすと笑う声と一緒にひやりと冷たい物が頬に降ってきた
「水だけど、欲しいか?」
冷えたペットボトルで少しだけ持ち直したキャスケットが用心深く そろそろと首を動かして頷くと、
一旦頬から離れたペットボトルを開ける音が聞こえてくる。
あ、起き上がらなきゃ、と重い体を動かそうとして、何かの気配を感じた
糊付けされたように強固にくっつきたがる上下の瞼をべりりと剥がしながら 「今、起きます」 と言おうとして、
キャスケットは、声を出す前に唇を塞がれてしまった

「ん?! んん? んぐっ」
少しずつ喉に送り込まれてくる水を、他にしようがなくて飲み下す
「ちょ、せんぱ、 自分で、」
飲み終えてもすぐに次の水を与えられて、キャスケットはまともにしゃべらせて貰えない
何度となく水分を摂取していくうちに、気付けば、いつの間にか深いものに変わっていた口付けを受けていた
「ん、ぅ・・・・っ」
ベッドに寝転んでいるのにぐらぐらする頭は体まで揺れているようで落ち着かない。
必死でシーツを握り絞めていたら ローの手が柔らかく引き剥がして握り込んできた
「・・・ふ、」
掴まる先を見つけたキャスケットの体は自然 力が抜けてベッドに沈んでいく
手のひら一つでこんなに安定感が得られる事を不思議に思うほど働かない頭は与えられる刺激を従順に受け入れる

ローの唇が離れた頃には、頭のみならず体までとろりと蕩けそうになっていたキャスケットは、もう何も考えられなくなっていた

(俺、何、しようとしてたんだっけ)
視界に映る先輩の姿をぼんやりと眺めながら考える
いや、考えるふりをしているだけの頭はまともな答えを弾き出しやしない

ふ、と 視界の中のローが笑った
妙に男臭い笑みは先輩があの部屋でだけ見せた表情だ

「起きらんねぇだろ、無理すんな」
言われて初めて、起き上がろうとしていたんだっけ? と目覚めた時の事を思い出す
(・・・だめだ。 何にも、考えられない)
酸欠と二日酔いでぼうっとする頭を優しく撫でられるうちに眠気が襲ってくる
とろりと 瞼が落ちてしまったのはまだ残ってたお酒のせいだ。
先輩のキスが気持ちよかったからなんかじゃない

そんなことを考えながら ゆっくりと、少しずつ、意識が散漫としてくる
キャスケットが完全に眠りに落ちる寸前、額に 先輩の唇を感じた気がした









 プライベートタイム




最初にやるときは見世物あんなとこじゃない方がいいよな

髪を撫でる手の向こうで そんな声が聞こえたのは 自分の見た夢・・・・だったのかな


[*前へ][次へ#]

83/100ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!