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SS置場11
拍手ログ 吸血鬼パロ3の番外
拍手ログです。これぞ番外って感じの吸血鬼パロ3の番外。4に行く前にこの場面が必要だと思うので…あと、ペンギンの
ちょっといいとこ見てみたい的なw







用事が長引いて遅くなった帰りにマンシェリーは足を速めていた。

(お父様は暗くなる前に戻りなさいと言っていた)

マンシェリーとてそのつもりでいたのだが、途中で馬車の事故騒ぎがあって予定通りに用事が片づかず、どうにか
帰宅を早めようと近道を選ぶという愚を犯した。
昼間でも暗い道なのだ。
森に近いその街道は普段の彼女なら絶対に夜道には選ばないルートで、だけど父親に心配を掛けるよりはと
その道へと分け入った。

(ここ、本当に真っ暗・・・)

恐がりのマンシェリーは昼でも1人では通らない道だった。
せかせかと先を急ぎながら、ちらっと背後を振り返る。

(なんだか視線を感じる気がするのだけど・・・)

だが遠くまで目を凝らしてももともとそれで心細く思っていたのだから当然ながらマンシェリー以外に人の姿はない。
なのに、おかしいなと首を傾げてマンシェリーが前に顔を向けると途端に視線が粘り着くように体を覆う。

(いやだ、怖い!)

ぞっ・・・と背筋を冷たいものが走った。
声を上げて駆け出したいのに、そうすることで何か恐ろしい事が起こりそうな予感にがくがくと身を震わせながら足を進める。
持っていた荷物を腕に抱えたのは足元から忍び寄る恐怖に怯えた無意識の仕草だった。

(こわい・・・怖い、怖い・・・!)

路面に落ちる木の影すら恐ろしく、ぎゅっと目をつぶって足を早めたマンシェリーは、遠くで聞こえた狼の遠吠えにビクッと
肩を跳ね上げて立ち止まる。
一度止まってしまえばもう駄目だった。竦んでしまった足が 恐ろしくて前に出せない。
背後に感じていた気配が徐々にその距離を縮めてくるのを痛いほど背に感じているのにガタガタと震えながら立ち尽くす。

(――お父様、ごめんなさい!)

真後ろに迫ったモノの息づかいさえ感じる程に間合いを詰められて、何者かは分からない相手に捕まる事を覚悟した。
捕まったが最後、その小さな身の無事は保障できないだろう。
寧ろ、命があるかどうかすら確証がなかった。
このまま帰宅できない事をはっきりと自覚して、マンシェリーは目を閉じ手のひらを組み合わせた。
祈りの格好で立った事で一瞬、震えが止まる。
身を捧げる生け贄の悲壮感を漂わせて目を閉じたマンシェリーの肩に何者かの手が掛かる寸前、鋭いスピードで
飛んできた何かがソレを弾いた。

気付いたマンシェリーが ハッ、と顔を上げる。
見開いた両の目には いつから其処にいたのか離れた位置に立つ旅人らしき男の姿が写った。
彼の手には小型の銃があり、そこから細い煙が上がっている。
背後を振り返る勇気はとてもなかったが、思いがけない助け手の出現に萎えていた足に最後の力を振り絞って
マンシェリーは男に向かって駆けだした。

「助けて!」

抱えていた荷物は投げだし、彼に向かって両手を伸ばす。
旅人は銃を構えた利き手はそのままに、マンシェリーの体を片手で庇って自分の背後へと回した。

「こんな小さな子に牙を掛けるほど餓えているのか?」
旅人の声には疑問を投げ掛けたというよりも挑発に近い侮蔑の色が滲んでいた。
彼の影から恐る恐る覗いてみたが、視界の先は薄暗い影になっていて姿がよく見えない。
なのに、何かが居るという存在感だけはひしひしと伝わってきて 慌てて首を引っ込める。
庇ってくれたこの人は大丈夫だろうかと不安の目差しで見上げると、無表情ながらも彼からは余裕のようなものが感じられる。
静かな口調には恐れは微塵もなく、旅人は暗闇に向かって告げた。

「大人しく引けば見逃してやる、と言いたいところだが・・・」
チャキ、と彼の手元の銃が音を立てる。
「子供でも構わないくらい餓えているのなら早計被害が生じるだろう。見境のないヤツはここで狩っておかなければ」
旅人が言い終えるかどうかのうちに闇の中から黒い塊が飛び出してきた。
落ち着き払った旅人は避ける様子もなく2発の弾丸をソレに向かって放ち、軽く身を屈めて空気を切り裂く風を躱した。
人間の耳では捉えられない悲鳴が辺りに響く。
・・・捉えられないのに、断末魔の悲鳴がマンシェリーの肌にビリビリと伝わってくるのが分かった。
その悲痛な響きに耳を押さえて蹲ってしまったマンシェリーに手を差し伸べ助け起こす。
それまでの無表情とは違って、多分 怯える子供を安心させる為の彼の微笑は暖かく、そこで初めて人心地がついたせいで
しくしくと泣きだしたマンシェリーを旅人は抱き上げた。



「吸血鬼・・・が、この街に?」
娘の危機を聞いた父親は恩人である旅人を引き留め、夕食をもてなしていた。
とびきりの酒を饗して彼の喉を潤し 先を急ぐからこの街には一晩しか滞在しないという旅人に是非うちに泊まってほしいと
申し出る。ハンターだというその男は父のあまりの勢いに苦笑していたがそういうことなら助かると泊まっていくことになった。

「じゃあ、狩りの旅をしているの?」
大人ふたりの話を聞いていたマンシェリーの質問に、旅人は困ったような笑みを口元に敷いた。
「いや… そういう訳でもないんだが…」
かなり名の知れた手強い吸血鬼を追っていると話していたのに旅人はハンティングではないという。
訳が分からずに疑問を浮かべて目をしばたくマンシェリーの横から父親が口を挟んだ。
「そういう事ならば開けた街中よりも森の奥深くを探した方がいいのでは?」
彼等が鬱蒼とした場所を好むという噂を信じる父親の言葉に彼は弛く首を振った。
「探している者は頭が良い。力はある故 隠れ住む必要はないだろう。栄えた街で人の中に溶け込んでいる可能性も高い」
彼には自らの特徴を隠す力があり、その長寿のせいか、自分達人間よりも頭が切れると話す旅人には、不思議と
懐かしむような雰囲気があった。
彼は一瞬 どこか遠くを眺める目付きをして、だが、直ぐに2人に目を向けてきた。
「討つかどうかと問われれば俺の腕では適わない相手だ。ただ、探している人物が彼と一緒に居るはずだから」
どうしてももう一度会わなければいけない相手なんだと旅人が笑う。
彼の会いたいという人はその恐ろしい吸血鬼に掠われたのかも知れない。
力では到底適わない強者が相手だというのに、旅人の目には迷いがなく、寧ろ晴れ晴れとさえしていた。

「・・・見つかるといいですね」
深い事情は詮索すべきではないと判断した父がそう言って話を締めくくる。
「ええ。必ず」
頷き、穏やかに微笑んだ旅人は、どれだけ時間が掛かっても見つけてみせると力強く言い切った。






 幕 間





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あきゅろす。
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