[携帯モード] [URL送信]

SS置場6
吸血鬼パロ2 (P)
久しぶりに吸血鬼パロ。今回萌えどころはなかった(ぇ SS置場に一覧を作りました








会いたくない
・・・と、思っている相手からの訪問にキャスケットは溜息を吐いて考えた

このまま会わずに済ませようかと少しの間逡巡し、だけど今居留守を使ったところで彼はまたやってくるのだからと
応対する事を決める

「・・・はい?」
躊躇った末に開けた扉の向こうで じりじりとした様子で待っていた相手の顔がこちらを向く
「俺だ、ペンギンだ。 キャスケット。話があるんだが・・・」
玄関先で そのまま話を始めそうな相手をいなすように手を上げて言葉を止める
「分かってる。話は聞くから、中に入りなよ」
避けられていると どこかで勘付いているのだろうペンギンが 意外そうに眉を上げた





屋敷に通されてもペンギンは落ち着き無さそうに座っていた
それでも、キャスケットが話を聞くと言ったからか、逸る気持ちを抑えてお茶うけと茶器をテーブルに置くキャスケットの手付きを
じっと見守っている
彼にとって焦れったいくらいの丁寧さで入れられ、どうぞと渡されたそれを 自らを落ち着けるように一口啜る
ここまで我慢してくれたのだから自分の方から話を促すしかないだろう
小さく息を吐いてペンギンと向かい合わせに座ったキャスケットは これ以上先延ばしに出来ないと、意を決して口を開いた

「・・・それで、話って?」
ある程度もなにも正確に予想がつくのだけどと思いながらの質問に すぐさまペンギンは飛びついた

「ハンターを辞めたって本当なのか?」
ほらやっぱり。
ペンギンの訪問なんてそれ以外に有り得ないもんなと思いながらキャスケットは頷く
自分は 彼とは距離を取りたいのだ
ハンターを辞める事はそれだけペンギンとの接点が無くなるのだから キャスケットにとっても願ったりの判断。
だけど、実状は自分だけの意思で決断したのではない
"仲間にされたくなかったら辞めろ" と、ローから強要されての決断だった

「なぜだ」
腑に落ちないという顔でペンギンが言い募る。 当然だろう。キャスケットは新人とはいえ、名前の売れ始めていたハンターで
重宝がっての依頼は引きも切らない
その中での的外れに若いキャスケットの引退の噂は 時折一緒に仕事をしていたペンギンには不思議に違いなかった

「ドクターストップ・・・みたいなもんなんだ」
迷ったあげく、自分だけの意思じゃないと明かす
本当の事を織り交ぜて話さなければペンギンも納得しないような気がした
それでなくとも、彼には絶対に話せない秘密を抱えた身なのだから。
どこにも怪我もなさそうなキャスケットからそう言われて、一瞬眉を顰めたペンギンだったが 少し身を引いて客観的に眺めたようだ

ああ、確かに見た目もひょろいしなと頷いたペンギンは、「だが」と言葉を続ける
「その医者は知らないんじゃないのか」
キャスケットは見た目に反して信じられないくらい力も強い。スピードだって――その俊敏さを自慢に思っていたペンギンも
舌を巻くほどなのだ
それのどこがドクターストップの掛かる人間の動きだと彼は説得してくる

ペンギンの耳に入ってきた情報ではこの街に大物が潜んでいるというのだ
自分一人では手に余る
かといって下手に未熟なハンターと徒党を組んでも徒にいたずらに負傷者を出すだけだ。
彼がおまえとなら・・・と、目をつけたのがキャスケットだと言う

(ローの事だ・・・)
話を聞きながらキャスケットはすぐに思い当たった
ペンギンの言う手強い大物も、キャスケット自身にドクターストップを言い渡したのも、ローに他ならないとキャスケットは知っている

以前、自分がこの屋敷を訪れた切っ掛けも、"狩り"の依頼だった
そのキャスケットが 相手を討ち取ったと聞かないままハンターを辞めたのだ
返り討ちに遭ったと判断されたのだろう
(実際、討ち取られたようなもんだもんな・・・)
負けたばかりかハーフである身を知られてしまった。 その上で、完全体にされたくなければ今の職を退けと募られた
――でなければ、血を啜れ、と。
ハンターを続けていれば身体に負担を掛ける
人間の食べ物だけを口にしているキャスケットの身体は早晩、その負担に耐えられなくなるとローは言う
キャスケットの持つ人間そのものの肉体に不相応な力を引き出すにはそれなりの栄養を与えなければならない、と。

命を捨ててでもと拒んだキャスケットに妥協案を突き付けたのもローだ
"ならばハンターは辞めることだ。てめえが俺の目の届くところに住むなら仲間にするのは勘弁してやる"
何の気紛れを起こしたのか、ローはキャスケットに向けた牙を納めた
(・・・死んでも、よかったのに)
ローがキャスケットにした提案は上からのものではあったが実際にはキャスケットの身を案じたものだ
身の内にある欲求に逆らって生きる自分を嘲笑っているのかもしれない
馬鹿な奴だと眺めて楽しんでいるだけなのかもしれない
(彼等吸血鬼に自分と同じ人間のような感情があるとも思えないのに)
それでも、キャスケットには自分を心配しての提案だと感じられたのだ

「どうかしたのか? キャスケット」
ペンギンの言葉で自分が考えに沈んでいたと気付いて目を上げる

真面目そうな、誠実そうなこの男に 『目的の吸血鬼はこの屋敷にいる』 と伝えて協力して討つのが、本当なら
キャスケットが一番望む展開のはずだった
「俺――、」
目の前のハンターに向かって、キャスケットは彼の待つ答えを告げるべく口を開いた








話の最中もキャスケットは妙に考えこむ顔をしていた

その様子から 何か迷っているような印象を受けたペンギンだったが、それが何かは読み取れない。
分かっている手札で判断すると 妥当なところが "ハンター引退を迷っている"としか思えないのだが、キャスケットは
ハンターという仕事を退く事には納得しているようだった
「見た目、元気そうに見えるだろうけど、ドクターストップの診断を受けたのは本当だよ。今のままじゃ、多分心臓とか
内蔵が先にボロボロになるって」
「・・・病気なのか?」
仕事で見掛けた時の彼からはそんな印象は受けなかった
だが ハンターを辞めなければならないくらいなのだから、そうであれば彼は深刻な病状のはずだ
「あ、いや・・・」
どう言葉を選ぼうかと考える素振りでキャスケットが言い淀む
少し考えたキャスケットは 当て嵌まる単語を見つけたのか、顔を上げ正面からペンギンの方を見た

「どちらかと言えば病気というよりは体質なんだ。ハンターみたいな激しい運動を伴う仕事はダメだって。人並みに走るのも
運動するのも構わない。だけど、命の遣り取りをするようなギリギリの場面で許容量を超えた動きを強いるのは俺の体には
負担が大きすぎる。限界を超えた能力は出せるよ。むしろ、力を引き出せてしまうからイコールそれは命を削る事になるって」
リミッターが設定できないからこそのドクターストップ。
別に入院が必要なわけでもないと言うが、確かに彼がそういう体質ならハンターという仕事を続けるのは無謀だった
常々キャスケットの尋常でない力や瞬発力にはペンギンも疑問だったのだ
あの華奢な体に潜む無限の力は、やはり限界を超えたものだったのだろう
「その・・・ 今は、体はなんともないのか?これまで、随分無茶をしていたと思うが・・・」
体調を気遣うペンギンに キャスケットは平気だと笑った
「入院はしてないけど、常に医者に監視されてるようなもんだからね」
彼の説明によると、以前ペンギンがこの屋敷で見掛けた男はキャスケットの主治医のような人間らしい。
キャスケットにハンターを辞めるよう進言したのもその男だという
鋭い目付きの、冷たい、鋭利な空気を身に纏った男は とても医者の雰囲気には見えなかったが、生業なりわいとしているのではなく
キャスケットを診ているのは どちらかと言えば趣味のようなものだと言われてなんとなく納得させられてしまった
(あの時の 射るような視線は観察者の目だった)
彼はキャスケットを患者としてではなく研究の対象として見ているのかもしれない

以前会った時の事を思い出しているペンギンに、キャスケットが声を掛けてきた
「俺の腕を認めてくれたのは光栄だけど、そういうわけだからこの仕事は請けられない」
話を聞いてみればキャスケットが引退を決めたのも納得できるものだった
悪いねとすまなさそうに言う彼に そういう事なら無理は言わない、自分も主治医の意見には賛成だ。体に負担の掛からない仕事を
探せと言い置いて退室を申し出る
ペンギンが粘らずあっさり引いた事にキャスケットはホッとしたようだった
見送って、玄関まで来てくれた彼は どうしてだか門のところまでペンギンについてきた

「あのさ、」
見送りの挨拶かと顔を向けたペンギンに、キャスケットが一歩近寄った
すると 不思議な事にキャスケットは声を潜めるようにしてペンギンに顔を寄せる
「そいつの情報、俺も持ってるんだ。前に依頼を受けた事があって、少し調べた」
初耳だったペンギンが目を瞠る
それに構わずキャスケットは早口に続きを告げた
「俺とペンギンが10人束になったって敵わない相手だ。悪い事は言わない。その仕事は断れ」
潜めた声なのに、聞き返す余地を与えない、強い口調だった
告げるだけ告げて答えを待たないキャスケットは 素早くペンギンから身を離す

「ハンターを辞めた俺に用はないだろ。ここには、もう来ない方がいい」

そう言ったキャスケットの顔色は酷く悪かった
何かを言おうとしたペンギンは 彼の纏った空気に圧されて言葉に詰まって立ち尽くす

質問を一切許さない雰囲気のキャスケットが背を向け 屋敷に戻っていくのを ペンギンは何も言えずに見送っていた








 切れた関わり

彼が恐れたのは止められない衝動
引き金は自分の中に流れる血













え、と・・・ 別にシリーズを続けるつもりは ないです、よ〜? キャスはあれですね、結果として自分の身を案じるローを
裏切ることができませんでしたってやつです。そしてペンギンに忠告せずにはいられない。でなきゃ確実にペンギンは
ローから返り討ちに遭って命を落としてしまう


[*前へ][次へ#]

95/100ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!