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クリスマスの夜【中】
「……晴乃?」
 ドアを開いて直ぐ横、その足元に座り込んでいたのは愛すべき妻だった。

 足を両腕で抱え込んで、すーすーと規則的で健やかな寝息が聞こえる。
 どうやら、待ちくたびれて寝てしまっているらしい。
 時計を見ると現在十一時。彼女の横には盆にのったクリスマスディナーがある。

 所々にアラザンが散りばめられ、アクセントに苺がふたつ乗っかっている手作りらしきケーキには、チョコペンで『MerryChristmas!』と書かれてあった。
 去年の有名洋菓子店のケーキとは違い、当然ながら少し不恰好だ。
 でも、彼女の愛情がひしひしと伝わる。

 それが余計に僕を申し訳なくさせ、きゅっと唇を噛み締めた。
 多分、僕が「あとちょっとだから待ってて」と言ったのが原因なのだろう。

 あの時は本当にあとちょっとの仕事だったのに、緊急のメールが飛んできた。
 それでまた仕事に夢中になって……このありさま。

 しかし、普通ブランケットやひざ掛けをかける、もしくは何かを羽織るべきではないのだろうか。
 確かに絨毯が敷かれてあるから、めちゃくちゃ寒いって訳ではない。
 それでも冬の廊下は寒いのに、肩にかけられているバスタオルからすると、どうやら湯上りのまま寝てしまったように見える。

 胸まで伸びた生乾きの髪は触ると冷たく、僕はむっと眉間に皺を寄せた。
「……先に、食べていれば良いのに」
 用意されている料理は明らかに二人分。
 彼女が自分の分を食べずに待っていたことは明らかだった。

 一体、メイド達はなにをしていたんだろう。
 どうせ彼女が、「気にしないで、いいから私に任せて」などと無理やり押し切ったのだろうことは想像につくけれど。

 どれだけ髪に触ってもそっと頬に触れても、瞼をぴくりとも動かそうとしない。
 仕方ない、僕は背中と膝裏に両腕を差し込んでそのまま抱き上げた。
僕の部屋の隣にある彼女の部屋を足で開け、彼女らしいディズニーのキャラクター柄のベッドに横たえた。

 耳の下で二つに結っているゴムを外し、ベッドサイドのテーブルに置く。
 結ばれていた原型を留めながらもふわりと晴乃の茶色がかかった髪が広がり、僕は小さく笑みを零した。

 ……しかし、これだけされても起きないなんて鈍感なのか大物なのか。
「お休み」
 今日渡そうと思っていたけれど、どうやら無理そうだ。
 ポケットから金色のリボンが巻かれた長細い箱を取り出し、晴乃を起こさないように音を立てずにそっと、枕もとに置いておく。

 明日、起きてきた晴乃がどんな反応をするのだろうと、それだけを楽しみに思いながら。


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あきゅろす。
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