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クリスマスの夜【後】
 誰かにふわっと持ち上げられた、気はするんだけど。いかんせん覚えてない。

 すぐ、それに気づいた訳じゃなかった。
 目を覚ましても暫くベッドの中で惰眠を貪り、そろそろ起きなきゃと思って体を起こしたら、枕元に置いてあった。
「んー?」

 なんだろ、これ。
 って言ってもこれで爆弾なことはありえないし、状況からしてプレゼントであることは明らか。
 これで別の物だったら、多分嫌がらせに近いだろうな。

 それは、細長いアイボリーの箱。金色のリボンが可愛らしくちょうちょ結びを作ってる。メッセージカードらしきものは一切無かった。
 窓辺にはホットミルクもないしクッキーのお皿もないし、元々香坂の家でもそんな習慣はない。
 第一年齢的にもサンタさんから、じゃないか。

 完全に覚醒してないぼんやりとした頭で、昨夜のことを思い返してみた。
 昨日はリビングで待ってお風呂に入って、そうだ、遼くんの部屋の前で寝ちゃ……って、え? それじゃあまさか。

 パジャマの裾で、慌てて口元を拭いた。
 今更だけどよだれ垂らしてたらどうしよう。寝顔めっちゃ変だったらどうしよう。
 あ、いびきかいてなかったよね。今日はもう顔合わせられないかも……(ムリだけど)。

 その前に、ここまで運んでくれたなら絶対重かったよね。
 こんなことになるなら、普段からもっと頑張ってダイエットしてれば良かった。

 それからふと我に返って、まじまじと箱を見つめる。大きさ的にはネックレスとか、細身の腕時計とかが妥当かな。 
 耳の近くに持ち上げて揺らしてみる。
 コトコト、軽やかで小さな音。あ、良かった。被ってない。

 頭が冷えてきた。っていうか、段々きちんと考えられるようになってきた。
 午前七時半。
 サイドテーブルの時計を見て、いつのまにか目覚ましのスイッチがOFFになってることにも気がついた。
「お礼、言わなきゃ」

 プレゼントも、部屋まで運んでもらったことも。
 それと昨日の言い訳も聞いてあげよう。OKが出たら、メイドさんも含めて、皆でクリスマスの続きをしよう。
 箱を握ったまま立ち上がる。ちょっとふらついたけど、一度大きく伸びをすれば大丈夫。

 きゅう、と寂しげにお腹が鳴って昨日の夕食を抜いたのを思い出した。もったいない、まだ残ってるかな。遼くんが捨ててないといいんだけど。
「……あ、そうだ」
 ベッドサイドにあるテーブルの引出しの中。

 シックな紺の、同じく細長い箱。遼くんが普段身に付けてるようなブランドのそれには叶わないけど、ガラスケースと睨めっこして一生懸命選んだ物。

 着けてくれたら、嬉しいな。 

 こっそりと、遼くんに見つからないように仕舞っていたそれを手にとって、私は部屋から出て行った。


END


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