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真夏の空から羽が降ってくる――――通称『羽事件』から数日たった。
先程『異世界』と称したように、今や少数となったまともな者には「ここは地球なのか、むしろ自分は地球にいるのか?」と疑問に思い始めたくなるような状態が続いている。
勿論大部分のまともじゃない者にとっては、なんら問題はない。考える事も感じる事もないのだから。
――――いや、出来ないと言うべきだろう。
よくあるSFの人間型ロボットのように、表情や姿は人間そっくりな彼らには、もう感情や思考力は皆無だ。ただインプットされている行動を規則正しく行うだけの、人間と呼ぶ事すら躊躇う存在。
今の地球は、そんな彼らで構成されている。
もちろん初めからそうだったわけじゃない。全ての始まりは、数日前の羽事件から。
それまでは一緒に笑い合っていた友人達も、自分を叱りつけていた教師も、角の花屋さんが飼っている凶暴な犬も。それまでは普通の存在だった。が、羽事件を境に、まるでロボットの様に感情がない――――いや、今の科学技術を考えるとロボット以下の存在に成り下がっている。
だが、そのような中でも何とか正気を保っている者もいた。
その一人が、彼女――――如月麗夜(きさらぎ れいや)である。
しかしこの幸運とでも呼ぶべき状況に、彼女はあまり良さを感じていなかった。
映画でも小説でも、このような事態はよくフィクションとして描かれている。おかしくなってしまったその他大勢の人間、その中でただ一人正気を保ち世界を救う美少女ヒロイン。確かに美少女ヒロインの座は役どころとしては美味しいが、現実問題、非常に面倒臭い。それならいっそ、自分もおかしくなれば楽じゃないだろうか。
彼女――麗夜は、熱血とか努力とかいう言葉が嫌いな、とても暢気で面倒臭がりやな現代っ子だった。
(…………うぅ。良いよね、普通の人間は! こんな事あっても、忘れられるんだもん! 解決するこっちの身にもなってよ)
彼女がそう心の中で愚痴った通り、この羽事件の大体の原因を彼女は分かっていた。
知っていたからこそ、嫌だった。
知らなければ何も悩む事なく、彼女もポンコツロボットでいられたのだから。その方が今の百倍くらい楽だったに違いない。
「憂鬱」
麗夜は思わずそう呟く。
もし麗夜がただの女の子であったのなら、こんな事には巻き込まれなかった。
もし麗夜が神童と呼ばれる程の少女でなければ、この事件の解決も誰かに委ねられたのに…………
影は願う
世界の崩壊
人間の崩壊を…………
Who will bell the cat?
ダーレガソンナ危ナイ仕事ヲヤルッテ言ウノヨ
[* bACk]
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