▽ 真夏の空から羽が降ってくる――――通称『羽事件』から数日たった。 先程『異世界』と称したように、今や少数となったまともな者には「ここは地球なのか、むしろ自分は地球にいるのか?」と疑問に思い始めたくなるような状態が続いている。 勿論大部分のまともじゃない者にとっては、なんら問題はない。考える事も感じる事もないのだから。 ――――いや、出来ないと言うべきだろう。 よくあるSFの人間型ロボットのように、表情や姿は人間そっくりな彼らには、もう感情や思考力は皆無だ。ただインプットされている行動を規則正しく行うだけの、人間と呼ぶ事すら躊躇う存在。 今の地球は、そんな彼らで構成されている。 もちろん初めからそうだったわけじゃない。全ての始まりは、数日前の羽事件から。 それまでは一緒に笑い合っていた友人達も、自分を叱りつけていた教師も、角の花屋さんが飼っている凶暴な犬も。それまでは普通の存在だった。が、羽事件を境に、まるでロボットの様に感情がない――――いや、今の科学技術を考えるとロボット以下の存在に成り下がっている。 だが、そのような中でも何とか正気を保っている者もいた。 その一人が、彼女――――如月麗夜(きさらぎ れいや)である。 しかしこの幸運とでも呼ぶべき状況に、彼女はあまり良さを感じていなかった。 映画でも小説でも、このような事態はよくフィクションとして描かれている。おかしくなってしまったその他大勢の人間、その中でただ一人正気を保ち世界を救う美少女ヒロイン。確かに美少女ヒロインの座は役どころとしては美味しいが、現実問題、非常に面倒臭い。それならいっそ、自分もおかしくなれば楽じゃないだろうか。 彼女――麗夜は、熱血とか努力とかいう言葉が嫌いな、とても暢気で面倒臭がりやな現代っ子だった。 (…………うぅ。良いよね、普通の人間は! こんな事あっても、忘れられるんだもん! 解決するこっちの身にもなってよ) 彼女がそう心の中で愚痴った通り、この羽事件の大体の原因を彼女は分かっていた。 知っていたからこそ、嫌だった。 知らなければ何も悩む事なく、彼女もポンコツロボットでいられたのだから。その方が今の百倍くらい楽だったに違いない。 「憂鬱」 麗夜は思わずそう呟く。 もし麗夜がただの女の子であったのなら、こんな事には巻き込まれなかった。 もし麗夜が神童と呼ばれる程の少女でなければ、この事件の解決も誰かに委ねられたのに………… 影は願う 世界の崩壊 人間の崩壊を………… Who will bell the cat? ダーレガソンナ危ナイ仕事ヲヤルッテ言ウノヨ [* bACk][NexT #] [戻る] |