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【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』2 R-18G 鬼畜A×X+D私邸後編

床に飛び散り滴る血は、どちらが流した物なのか解らなくなっていた
枷を引き千切った赤髪と、僕の攻撃魔法の衝突で、
最新の医療機材は、鉄くずの山に、瓦礫と化してしまっているけれど
彼をこの部屋に閉じ込める為の、魔力結界はまだ有効だ、放電するソレが燻っている

だからと言うワケではないが…この戦いは圧倒的に僕が不利なのだ

先程追加したモノも含めて、結界全体を維持する事に大幅に魔力を消耗するから
大斧を含めた大技は使え無い…その状態で、この怪物と正面から戦うなど無謀も良い所だ

そもそも黒髪の方ならともかく、赤髪のエースに敵うワケが無い、最初から解っている

衝撃派に叩きつけられ、破壊された機材に、半ば埋もれる様なカタチで呻く僕を
大きな手が引きつかみ、引き摺り出す、既に勝敗は決まっていても関係ない
この部屋から出る為には、術者の僕を叩くのが一番早いからだ…僕の意思で解除させるのが

勿論…僕が自らソレを解くワケも無い事くらい、この男だって解っている
だから…術が維持出来なくなるまで、僕をいたぶり嬲りつくす、ただそれだけだ
その気になれば、既にダメージを負っている僕をその場に放置して
直接結界を引き裂く事も、出来るはずなのだが…それでは気が済まないのだろうね…

赤髪は僕を嫌っている、憎んでさえいるから

彼の出現と行動を制限する薬品の開発者など、邪魔な存在でしかないから、当然だ
本心では…時間をかけて、なぶり殺したいと思っているだろうね、今でも

多少は僕の反撃を喰らいながらも、彼にとっては、大した問題ではないのだろう
勝ち誇った顔で、獲物に成り下がった僕を床に組み敷くと
ボロボロでもう用をなさないスクラブと、白衣も乱暴に毟りとる

その下も…ソレごと引き裂かれててしまっているので、既にズタズタだ

外気を直接肌に感じる冷たさと一緒に、取り払われる布が、生々しい傷の上を掠める
張り付くようなその痛みに、小さく上がる僕の声に、相手はニンマリと笑う

「お楽しみは、これからじゃないか…えっ?そうだろう?センセイ?」

その言葉と共に、直説肌にしゃぶりつかれ、噛みつかれた上に、流す血を啜られる
鋭い爪で、傷口を広げられ、新たに切り裂かれる痛みが走るけど、敢えて好きにさせれば
与えられる苦痛に震える肌の上を、無遠慮な唇と指が移動してゆく、血塗れのままで

酷い有様だが…これでも以前に比べればマシな方だ
昔のソレなら…この時点で、両方の角を折り取られた上に、
腕の一本や二本は毟り取られていてもおかしくはないのだが

憎たらしいが、殺してしまうには惜しい…そういう事なのだろうか?
狂っているはずの相手に、中途半端な手心を加えられる、この状況下が理解出来ない

赤髪は僕の治癒魔法を、肌の再生速度を熟知しているから、完全に遊ばれているのだ
触れられ傷つけられる度に、ビクビクと痙攣を繰り返す、僕の反応を楽しんでいる

そのまま、見せつける様に、僕の血に塗れたその指を、べろりと舐め回すと
無遠慮なソレが、脚をなで上げ、いきなり一番弱い部分を弄ってくる
慣らしもせずに侵入してくる、乾いた指の感覚と圧迫感に
震え全身で拒絶する僕の息苦しさなど、どうでもいいのだろう、
グチャグチャと中を掻き回しながら、耳元を舐め上げながら囁いてくる

「なんだ、用意だけはいいな…そんなに欲しかった?」

確かに事前に用意はしているけど、そんな事有るワケがない、必要以上に弱いソコを傷つけたくなかっただけだ
暴行の後の行為は何時も性急で、無茶苦茶だから…先に何かしらを仕込んでおかなければ身体が持たない
女性の様に自己防衛は出来ないから、先に自分でシてしまった方が良いだけ、ただソレだけだ

相手だってソレくらい解っているクセに、ニヤニヤと嫌な笑みを零し、嫌味を吐く
全くもって最悪だ、いちいち神経を逆撫でする、この男の悪趣味もこの性格も

でも解るよ…似て非なる凶暴性を、同じ様な性を僕も持っているからね
抑えられない衝動と欲望の解放に狂喜する、君の気持ちも、昂ぶりも
そして…正気に戻ってから傷付いて、後悔する君の姿も見えてしまうから
だから君を受け入れる、狂った君に、身体を差し出して、好きにさせる

でも…コレは何時もの彼ではないのだ、僕をゼノンと呼ぶ方の彼では無い

完全に暴走状態の、狂った患者を、そのまま外に解き放つくらいなら
本来の彼の立場が危ぶみ、その名誉が傷ついてしまうくらいなら
その前にこうやって、僕自身が相手をしてやればいい…ただソレだけだ
相手の破壊的な衝動を、根源を、ある程度収めてしまうのが一番楽なだけだ

頭ではそう納得していても、気持までは…なかなかついていかないよ
だって君は友だから、そういう対象ではないから

「おっと…手癖が悪いのも、何時も通りか?」

ビクリと震える僕を見て、口角を上げて、ニヤリと笑う彼の顔が妙に近い

そう…のし掛かる彼の背にすがりつき、首筋にコチラも指を這わせようとしたのだが
今回の中途半端な演技は、どうやら見破られていたようだ
体勢を立て直す隙もありはしない、その手首を捕まれ、脱臼寸前までねじ上げられてしまう
それでも諦めきれずに反対側の爪が、彼に掴みかかろうとするが、空しく中をかくだけ
突き飛ばされ、俯せにのまま、膝と体重で押さえ込まれてしまえば、もうどうしようもない
断線して床に散らばっていたケーブルで、あっと言う間に両腕を拘束されてしまっても尚
相手を睨み付ける僕を、せせら笑うと、真後ろに固定した手首を、もう一度引き掴む

厳重な目くらましは掛けていたのだが、そう何度も同じ手は通用しないか…

僕の両方の手の甲から毟り取られるのは、毒使いが使う暗殺用の暗器「シヴァの爪」
もっとも、僕のソレは暗殺用では、なくて投薬用のモノだけれど…
三つ目の抑制剤と一緒に、古代竜でも一撃で眠らせる強さの、鎮静剤を仕込んでいたのだが…
何時から気がついていたのやら

「さっき散々、注射も採血もさせてやっじゃないか?センセイ?まだ足りないのか?」

装着ベルトを引き千切り、毟り取った暗器を、そのまま手の中で焼き尽くすと
そのまま僕の頭を押さえつけ、強引に腰を上げろと強要してくる
カタチばかりの抵抗をしたところで、この暴行が収まるワケもない
そして…宛がわれる熱い塊に、思わず息をのんでしまう
前戯とは、とうてい呼べない拡張では、とても受け止めきれないその質量を感じて
ブルリと震える僕の反応を、この男が見逃してくれるはずも無かった

そのまま直ぐには、挿れてこない…痛みに対する恐怖心をワザと煽ってくる
焦らす様にソレを、質量を感じられる様に、ゆっくりと擦りつけて来ると
震え竦み上がるソコにを一気に刺し貫き、昂ぶりをねじこんでくる、
わざわざ一番狭くなったであろう時を見計らって…

「くぅ…ああっ……あああああっ」

ギシギシと軋むソコは傷付き、熱い摩擦の痛みに思わず背が反り返る
そもそも僕は、抱かれる側には慣れていない、そういう対象として見られないから
それなのに…そうじゃなくても凶悪すぎるソレを、こうして無理に押し込められるのだ
髪を振り乱し、苦痛を訴える僕の反応も、かえって彼を楽しませているだけなのか?
一方的に穿たれるソレに、無理に押し広げられ切れたソコから、内股に血が滴るのを感じる
いや…僕だけではない、こんな状態では、相手だって快楽には程遠いに違いないのに
その興奮は少しも収まらずに、更に奥を抉り、嬲り突き上げてくる
その圧迫感と痛みに、堪らずに嗚咽する僕を、ねっととした緑の目が見下ろす

「痛い、苦しい、ばかりじゃ無いだろう?啼けよ…センセイ…遠慮せずに」

返事などする余裕も無い、痛みと圧迫感に、ただガクガクと震える僕を
奇妙な程優しく後ろから抱き締めると、相手の手が僕のソレを探り当てる
回ってきた手が、前をしごきあげてはくるのだが、同時に無防備な胸元を撫で上げたかと思えば…
その上にまた新しい傷を、ジワジワと刻みつけてゆく、滅多に伸ばさないその爪で
ゆっくりとワザと痛みが長引く様に、敏感な部分をブツブツと千切ってゆくその刺激に
堪らず流れる涙を、赤い唇が舐め上げてくる、酷く嬉しそうに

「いい加減いちいち反抗するなよ、素直に抱かれろよ…そしたら少しは優しくしてやるぜ」

嘘つき…普通に抱く気なんて欠片も無いクセに…
済ました顔をしている僕が、泣き喚く様が堪らない、前にそう言ったじゃないか君自身が

ああ…本当に僕は、一体何をしているのだろうか
ここまで患者に入れあげる必要も、僕が傷付く意味も無いのに………

※※※※※※※※※※※※※※

副大魔王邸で一通りの診察を終えた後、僕は一度文化局に戻る事になる
主治医になった以上、暫くは彼の館からココに戻れない旨を伝える事と、文化局の業務の引き継ぎと共に
移動可能な最低限度の機材は、ココから持ち込みたかったからだ
先方で新たに揃えるモノも多いけど、やはり基本は使い慣れたモノがいいから

ついでに【邪眼】に関する過去の資料も集めるつもりだったが
先程取ったばかりのデーターと、文化局に保存されている【邪眼】に関する膨大な過去資料を比較しながら、溜息をつく

これは一筋縄ではいかない、とんでもない「厄介事」を背負い込んでしまったかもしれない

「見ての通り摘出手術は不可能だ…無限再生機能も備わっている
仮に抉り出しても何事も無かったかの様に、元通りになってしまうのだ…」

例え【邪眼】が額に有り続けたとしても、それを抑制する薬品を開発して欲しい
ドクターが開発中の【鬼族の抑制薬】の効力は聞き及んでいる、
同じ要領でこの男のソレも調合してもらえないだろうか?

そう言って研究職の僕に、深々と頭を下げる副大魔王には、正直面食らってしまった

確かにこの邪眼が、魔族の魔界全土の脅威となる事には間違いない
為政者の一名として、その存在に責任を感じる、ソレも理解出来るのだが

ソレ以上に…何故そこまで彼が、エースに入れ込むのか?

副大魔王程の地位と身分なら、何時足下を掬われてもおかしくはない
いくら親しい仲とは言え、エースと関係を続ける事の方が、
自らにとってもウィークポイントになりかねないだろう、現状では?

当事者よりも、ずっと真剣に見えるその様子に、多少の違和感を感じながらも
僕はその『依頼』を断る事は出来なかった

誰も挑戦した事の無い、難しい症例には違い無いが、原理としては同じ様に思えたからだ
【鬼の衝動】も【邪眼の暴走】も…薬学上の理論では、類似した機能抑制で行けるはずだと

しかし…コレは実際に研究に取りかかり、半分は正解で半分は間違っていた事に気がつく事になる

ただ…同じ様な性を抱える鬼族として、文化局のイチ研究者としても
この症例を見過ごす事が出来なかったのは、多分間違いはない

【邪眼】は、何世代か前に流行した、改造手術であり弊害でもある

宿主の生命維持を完全無視した上での、魔力の爆発、全解放を可能とする特殊器官
その源となっている額の【目】は、本体とは隔離された【もう一つの魔格】
凶暴性を特化した、【スペアの脳髄】と言っても良いものだ

後天的な能力増幅器官の移植手術は、技術的にはさして新しいモノではなく
ある程度の金額を支払えば、どんな者でも受けられる手術だったのだ、安易な魔力UPの手段として…

【邪眼】は、言わば魔力を僧服するための、後付の生体ユニットの様なモノだった
意図的に作られた、「狂戦士」「破壊者」の烙印でもあった代物だ

しかし…その問題性は、間もなく頻発した【邪眼】の暴走事故で露見する事になる

その宿主はおろか、外部的にも、その狂った凶暴性を管理する事は難しく
一度暴走させれば、周囲に存在する全ての生命反応を、執拗に駆逐してしまう…敵も味方も関係無く
そして…その発動時間が長引く程に、宿主への悪影響も、限界を超えた肉体的な負荷も凄まじく
最終的には、宿主の自身の肉体はおろか、魔力も精神をも食い尽くしてしまうのだ
天界における『翼手』とさほど変わらない、外法であり、生物兵器のと言っても良い

ところが…その派生が軍部ではなく、市井の闇医者であった事が、
民間の違法改造手術を起源とした事が、大問題だったのだ 
充分な事前研究もされず、術後の危険性は愚か、被験者に対する安全性すら、
キチンと確認されないままに、技術が広まってしまったのだ、魔界全土に…

これは治安部隊の最大の汚点と言われて居る

その危険性を重く見た魔王政権は、軍部における【邪眼】の後続開発の凍結
及び市井においても、新たな移植手術を、硬く禁じる事になるのだが
今尚、闇ルートで、邪眼の移植手術を受けてしまう者が後をたたない
充分な力を持たない、魔力レベルの低い者・下層階級者は特にソレを望む
身に過ぎた強力な魔力と、ソレを手がかりとした、立身出世を願う者も少なくはないのだ
その殆どが、その野心を叶える前に、【邪眼】に食い殺されてしまうと言うのに

そして…数こそは少ないが、生まれながらに、先天的にソレを持つ者も居る

高い代償をと引き替えに得た【邪眼】を、「かりそめの力」を失う事を恐れるあまり
同時に邪眼の無限再生能力を、付け加えた輩も居たからだ、DNA操作までして
その弊害だと言うのか?何世代か前の先祖が、その操作を受けていた場合
隔世遺伝的に【邪眼】の因子を持つ子孫が、今でも出てしまう事例も報告されている

当然その殆どが、魔力レベルの低い下級悪魔・下層階級の者なのだが
上級悪魔であっても…ソレが全く無いワケではないのだ
具体的な邪眼とその遺伝操作の危険性が、公に認知されるまでは
身分に関係なく、誰でも普通に受ける事の出来る「医療行為」だったのだから
安易な魔力UPを願ったのは、何も力の無いモノ達には留まらなかっただけだ

しかし【先天性の邪眼持ち】は、基本的には成体になるまで、生き延びる事が少ない

自己の魔力解放の加減が、自己調整出来る年頃になる前に、もとい赤子のウチに
【邪眼の暴走】が起こってしまえば…幼い子供の生命力などひとたまりもない
生命の危険回避はだけではない、ちょっとした精神の不安定さ、昂ぶりなどを引き金にでもソノ現象は起こりうる
そして、たった一度の魔力放出でも、干からびてしまうかの様に、滅んでしまうからだ

潜在的能力と魔力が高い程に、放出する魔力の量も反発作用は強すぎる為、その危険度は増してしまう
故に『上級悪魔には先天的な邪眼持ちは存在できない』と言うのが、研究者の定説だった

だが…目の前に晒されているソレには、後から移植した様子は見られない
ぱっと見は解らないのだが、医療に関わるモノであれば解る
後天的に移植手術を受けたモノならば、部分にどうしても移植痕が残ってしまう為
本体と付属された部分の差が出てくるモノなのだが、何度見てもソレを感じない

先天的な邪眼持ちだと言うのか?名門中の貴族の上級悪魔が?????

「………言っておくが、後から移植したんじゃない、最初からココにあったんだ」

こんなクソ忌々しいモノに頼らずとも、俺は充分に強いんだ…
こんなモノの因子を残した御先祖様とやらを、今すぐ締め上げてやりたいね
と唸るのだが、その様子を正面から見ている副大魔王が続ける

「ああ…お前には必要無いモノだな、あの時、我を忘れなければ、キレてしまわなければ
生涯その頭の中で眠っていたかもしれないな、その目も、赤い髪の方のお前も」

横になったままの副大魔王が、しゅんと下を向く表情から推測するに
生まれた時から【邪眼】が額に露出していた、と言う分けでもなさそうだね
何かを引き金に、それこそ生命を脅かされる様な?恐怖や経験をきっかけにして
眠っていたソレを引き摺り出してしまった…と言う所なのだろうか?

そして…その切っ掛けには、この金色の悪魔が大きく関わって居ると言う事か…

「もっと側に寄って、患部を見せてもらっても、構わないかな?
簡易検査には、限界があるけれど…必要なサンプルとデータを取らせてもらうよ、
後日文化局内に、隔離施設を用意するから、再度精密検査をするのは無理かな?」

なるべく穏やかにそう告げれば…当事者は「勝手にしろ」と間髪入れずに吐き捨てる
それでも、「文化局に出向いての診察だけは御免被る」と言い張るのは
やはり…この事実を、外には漏らしたくは無いからなのだろうね

僕は、そのまますぐに席を立つと、患者のすぐ脇にお邪魔する、気持が変わらない内にね
ソファに腰をかけたまま、コチラを見上げる彼の表情は、やはり不満そうだ
三白眼と潰れかけた額の目が、どちらもギロリとコチラを見ている

それにしても、近くで見ればみる程に、額の目は酷い裂傷だ
再生能力の高い眼球の方は、既にカタチは取り戻しているけれど…
額の皮膚の上に残る傷は、生々しくて痛々しい、完治するのにはかなり時間が掛かるだろう
傷口からは、物理的な痛みよりも、ソレに至る憔悴感が、当事者の強焦りと怒りの方が、強く伝わってくる
眼球が破裂したと思われる最初の一撃は、どうやら他者から加えられたモノの様だが
その後に何度も自分で掻きむしっているね、何度も何度も

【邪眼】と言っても、痛感は普通の目と変わらない、肉体の中では痛点が集中している場所だ
いやもしかしたら…脳に近い分、それ以上の痛覚があるのかもしれないのに

それ程までに怖かったのかい?三つ目の破壊衝動が、自分のしでかしてしまった光景が?

「………実は今回も、敵の大半もろともに、前線部隊は完全に消滅しちまってな…」

大柄の悪魔がポツリとつぶやく、いたたまれない視線を彼に落としながら

「コイツだけが悪いんじゃない、予測不能な混戦は、戦では当たり前なんだ
エースはエースで居られる様に、細心の注意は払っているんだが、ソレだけじゃ駄目なんだ
味方が不利になると、特にデーモンが危なくなると、どうしても激高しやすくてな
コイツが一度キレちまうと、周囲の連中を全て巻き添えにしてしまう
敵も味方も関係なく焼き尽くしてしまう、コイツの魔力レベルでソレが起こったら
どんな事になるか、文化局の先生でも解るだろ?」

確かに…ソレは簡単に想像はつくよ、並の【狂戦士】とはレベルが違うのだから
制御不能な最終兵器が、敵味方入り交じる戦場で、無差別に荒れ狂うなど悪夢でしかない

「今迄、邪眼が出現した回数はどれくらい?その被害規模は何時も一緒なの?」
「5回…ガキの頃から覚えている限りでは、力の放出度合いは、キレた状況下にもよるが…」

傷の状態を眺めながら、淡々と状況を尋ねる僕に、今度は患者自身の重い口を開く

「だが…コイツは解放される度に、安定してゆく様に感じる、別魔格の自我の方も………」

その先を続けようとしない、続ける事の出来ない彼のその様子に、事の深刻さと、彼自身の苦悩を深く感じた
以前【鬼の衝動】を恥じて、悩み苦しんだ、僕自身の様に

「開発中の鬼の制御薬の出来は、中々のモノだと聴いて居る
同様のモノを、彼の為に調合しては貰えぬだろうか?出来うる限りで良い早急にだ
必要な設備機材はコチラで全て用意しよう、遠慮無く申し出てくれ
報酬は言い値で払う用意はある、引き受けては貰えないだろうか?」

決して安易には引き受けられない、承諾出来る『症例』では無かった…
下手な失敗は許されない、副大魔王とエースの失脚だけでは済まされない
僕しいては文化局の信用の失墜にも、いや最悪の場合、魔界の存続に関わる

それでも…この事例を引き受けられる適任者は、僕しか居ないだろう

恐ろしく危険な研究になるだろうコレは…ヨカナーンの目を奪った時以上に
そう思うと、震えが止まらなくなる程に怖いのに…
同時に変に高揚感を覚えている自分も居るのだ
誰の手にも負えない症例に挑戦する探究心か?コレも?学者としての悪い癖か?

「わかりました…研究・開発費用の方は、遠慮無く請求させて頂きます
報酬は…納得出来るモノが完成した後で、かまいませんよ
それと…今回の仕事は、僕一名の手に負いきれるとは思えません、
僕の薬学の師匠を…鬼族の試薬の共同開発者を、コチラに招集しても構いませんか?
ロクスタの魔女で名はカリティ…身元の方は、情報局の方で確認して頂きたい」

カリティの承諾も得ない内に、彼女の名前を出すのは、問題だったかもしれないけれど
事が大事なだけに、今回は仕方が無い、それにきっと彼女もこの挑戦には賛同してくれる筈だから…

魔女であるカリティは、悪魔とは異なる特別なコミュニティーに属する
基本的には秘密主義で、表に出る事を好まない為
彼女があの薬の共同開発者である事は、余り知られてはいない
一度は顔を見合わせ、困った様な、怪訝な顔をした三名ではあったけれど
その場に持ち込まれた、情報局のデーター端末を覗きこんでいる様子を見る限り
彼女を呼ぶ事には問題は無さそうな様子だ

直ぐさま簡単な事の顛末を手紙に認めて、封筒に僕のサインを入れると、
魔女の館に使いを出してもらう事になった
書かれている内容が内容なだけに、あの執事がそのまま店に赴くらしいのだが
ダウンタウンに、身なりの良い上級悪魔が、そのまま赴くのは不味いと
付け加えると、慌てて姿隠しのマントを羽織るのが印象的だった
うん…この対応なら大丈夫だろう、貴族嫌いの風潮は、実はカリティにも少なからずあるのだが
まぁ…僕のサインを見たら、そう臍は曲げずにココまで来てくれるだろう
魔女と付き合う事の難しさは、この執事も解っているはずだから

後は…出来れば、もっと設備の整った所で、精密検査をしたい旨を
再度そう申し出てはみるのだけれど、やはりソレは無理なのか?
どうしても頸を縦にはふらない、その押し問答を眺めていた、副大魔王が静かに答える

「ゼノン…機密も重要なのだが、治療中の暴走に、万が一に備えるのであれば、極力この部屋での診察を願いたい
エースの三つ目にの暴走を確実に止められるのは、ダミアン殿下と吾輩くらいなのだ、陛下に御足労願うワケにもいかなくてな
謹慎中のエースに、吾輩もずっと張り付いている事は叶わないが
特別仕様のこの部屋なら、外に被害を拡散させなくて済むからな…」

そう言われてから、この部屋全体を改めて見回せば…
書斎であると同時に、『防音室』を兼ね備えた特別室である事、ようやく気がつく
迂闊にもケバケバしい装飾に目を奪われ、意識できなかったが
風属性のフィラメントを、力の源である大気の振動を、魔力効果ごとにも閉じ込める為のソレは、禁呪を繰り出す部屋でもあるのだ

後から確認した話では、以前は、政敵を抹殺するための部屋だったそうだ
相手を言葉巧みに誘い込み、全てを眠らせ死の淵に誘う唄、【ヒュプノス・コード】を展開する為の
邸宅内の目標以外の者を護る目的で、強い言霊を外に漏らさない仕様になっている為、
本来の目的を外れ、代々の当主の執務部屋として好んで使う様になったそうだ

「この部屋でなら…吾輩なら、あの三つ目を眠らせる事が出来る、平和的な手段で
直接眼球を抉った上で、強引にその発動を止める様な真似は、極力したくはないのだ」

そう続ける副大魔王の肩は震えていた…今回の眼球の傷は彼の手によるモノなのか?

確認すべき事はまだまだ有ったけれど…その場に流れた沈黙と重々しい空気だけでも
僕がこの仕事を引き受ける理由には、充分だったかもしれない

今思えば、少々感傷的になりすぎていたかもしれないけれど

そうだ…今回の仕事は、治療も研究にも長くは時間が取れない、
患者の謹慎が解ける迄に、ある程度の成果を出す必要があるのだ
場合によっては、成果を出さなければ、このまま彼の失脚もありうるかもしれない
皇太子の側近中の側近で、副大魔王の片腕だったとしてもだ

いや…それ以上に、更に自体が深刻化すれば、
「彼の存在自体が魔界の脅威になりかねない等」と判断されれば
何れは粛正の対象にもなりうるだろう、閣僚候補だとしてもその可能性はゼロではない

今のところ、彼の邪眼の発動を目撃した者は、極一部の関係者に限られている
他の目撃者は、その力の爆発に巻き込まれ、全て死に絶えてしまっているからだ
それでも、何時までもその事実を隠蔽する事は出来ない、天界側にも魔界側にも

ソレは流石に具合が悪い、患者を元の場所に戻す、それが医師のしての役割だ
一度依頼を受けたからには、責任は全うしなければならない

間もなく…使いに出た執事が、魔女の館からカリティを連れて戻ってくる

「ご機嫌麗しゅうございます、副大魔王閣下、私と我が弟子の御指名を感謝いたしますわ」

館の主に形式通りの挨拶は済ませた彼女は、簡易的な魔女の正装で現れたものの…
余程急されてココに到着したのだろう、彼女自身のご機嫌はあまり麗しいとは言えない様だ
直ぐ側に控えていた、僕の姿を見とがめれば、開口一番に飛び出すのは、お説教だ

「コチラの承諾も得ずに、いきなり呼び出すのは失礼でしょ?」と
周囲の目も気にせず、多少は憤慨した態度を、露わにする彼女ではあったけれど…
その割には、もうしっかりヤる気になっているじゃないですか?
必要なモノは、持ち込んで来ている様で、荷物持ちを兼ねたゴレーム達が、ゾロゾロ部屋に入ってくる

「おいおい、助手は困るって言ったじゃないか」

大柄の悪魔が呆れた様に吠えるので、僕は慌てて説明する

「ああ…上級悪魔には馴染みがなかったよね、コレはゴレーム、魔女の魔法具の一種だよ
心も思念も無い土人形で、僕や彼女の思念で動く分身みたいなモノだから、コレから情報は漏れないよ」

僕等がこの側を離れたら、ただの人形に戻ってしまうからね、と付け加えるのだが
ゴレーム特有のヨタヨタとした動きが、薄気味悪いらしく
大きな図体のワリには、尻尾が膨らんでいるのが、妙に可愛らしいくもある

執事が指示をした場所に、てきぱきと持ち込まれる機材を、不思議そうにながめる副大魔王ではあったが
荷物に紛れて、オマケでついて来てしまったらしい、店頭用の小さなゴレームが
大きな仲間に踏みつぶされるのを恐れて、ちょこまかと走る様に興味を持ったのか
小動物を呼ぶ様に、床に手を差し伸べて、ソレを指で呼ぶと、走り寄ってきたゴレームを手の上に乗せる

丁寧におじぎをする小人に、命が無い事が信じられないと言う風体で、僕を見上げるので
彼の目の前で、その核を動力を止めてしまえば、小人はあっと言う間に人形に戻ってしまう
それをもう一度、僕は指先でコツンと弾けば、再びむくりと起き上がり動き出すその様は
やはり見慣れない悪魔には、不思議で仕方が無いのか?首をかしげながらも、自身でもソレをつついている
その横顔からは、特に警戒心もなく、先程の思い詰めた様な悲壮感が、少しだけ消えていて、僕も少しだけ安堵する

負傷者にはストレスはあまり良くないからね…少しは心配事が軽くなってくれればいいのだけれど

「さて…手紙に書かれていたワガママな患者とは、貴方の事かしら?」

同じ様に、怪訝な顔でゴレーム達を眺めているエースに、カリティはゆっくり近づく

「ワガママだなんてとんでもない、貴女の弟子がそんな事を?
こんなに綺麗な女医に診て頂けるのなら、光栄ですよ、宜しくお願いしますよ」

カリティの手を取り、その甲にキスを落とすも…その目は全く笑ってない
急に呼び出される事になった相手に対して、まだ信用がおけないそんな所だろう
まぁ…彼女が女性な分、僕の時とは随分対応が違う様だけど、無理にフェミニストぶる必要も無いのにね
相手は魔女で、僕等の倍は生きているんだから…つまらない虚勢としか取られないよ

「お上手ね…私にも、その目をしっかり見せてちょうだい、坊や
邪眼持ちについての知識は、魔力の低い市井人の方が深いでしょうから
しっかり治してしまいましょうね、大丈夫きっと制御出来る様になるから…」

そう言って、酷い裂傷の残るソコを丁寧に撫でられ、軽くキスを落とされた事には
流石の彼も驚いたのだろう、慌てて額を隠すと後ずさるのが、コチラも妙に可愛らしい
今迄の不遜の態度も含めて、不安から来る威嚇だと思えば、腹も立たなくなるのが不思議だ

そして、その姿を見てコロコロと笑う彼女は、我が師匠ながら、やはり凄い
魔界で魔力の源である角を切り落としてしまう、その思い切りの良さは勿論だが
魔力レベルが何倍も違う相手にも、一切引かない肝の据わり方は多分敵わない
やっぱり無理にでも彼女を呼び出して良かった、もしこの場に僕だけだったら
どうしようもなくギスギスとした空気と、重々しい雰囲気にしかならなかっただろうから

さて…時間は限られている、制御する範囲は何処までか?
またソレが本当に可能かどうかすら解らないけど
引き受けたからにはやり遂げる、その自信だけは何故かあった

後になって考えれば…鬼の制御薬で、ある程度の成果を出していた事に
少々天狗になっていたのかもしれないね、あの時の僕も、そしてカリティも

いずれにしても…それが長い付き合いの始まりになった
下手をすれば、魔界の破壊者になりかねない、最悪最凶の【邪眼】と
黒髪と赤髪の両方の魔格を持つエースとの、長い長い付き合いの

その時はまだ…それが生涯抱え込むべき問題になるとは、
我が身を楯にする災悪になるとは、考えていなかったかもしれないね


続く

とりあえず…和尚に(全力)土下座、痛い思いをさせて申し訳ございません



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あきゅろす。
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