GEASS 四十億年待っていて (スザルル) 現代高校生パラレろ。死ネタ有りなのでご注意。 ヤマシタトモコ先生リスペスト。 今年一番の寒さと天気予報が言っていた。毎朝言っていて今更何を。 マフラーを外し、教室の戸を開ける。 いつもとは違うクラスの空気が俺を包む。 女子の咽び泣く声と、男子の暗い表情が目に飛び込む。 困惑し立ち尽くしている俺に、いつもは明るいはずの友人が、肩を落とし近づいてきた。 「おい、何があったんだ?」 基本他人には興味はないが、これは異様だ。 瞳にたっぷりと涙を浮かべ、友人はゆっくり口を開いた。 「枢木が………死んだって」 笑えなかった。 友人が視線を向けたその先、俺の前の席に、綺麗に生けられた花が置いてあったのだから。 今日は一日おかしかった。 休み時間も重苦しく、あまり席を立つ者もいなかった。 雑誌をみてはしゃぐ女子も、馬鹿騒ぎをする男子もいなかった。 授業は皆上の空なせいか、先生の配慮か知らないが自習が多かった。 自習と言われても身が入らず、俺はぼうっと前の席の花を見つめた。 漂う香りは、この花からか。 枢木とは同じ学区だったため小学校・中学校と同じ学校に通い、何の因果か高校まで一緒だった。 しかし同じクラスになったのは、小学校の1・2年の時のみで、部活や委員会なども同じことが無かったので、喋った記憶はほとんどない。 明るくて、スポーツ万能、クラスの人気者という立ち位置の枢木と俺が、仲良くなんてなるはずがないのだ。 人一人亡くなったというのに、思うのはそれくらいだ。 ただ、今更だが、もっと色んなことを話してみたかったかなとは思う。 知っているのと、分かるのはまた別のことだから。 担任の話だと、枢木は昨日の帰り道で交通事故に遭い、今朝未明息を引き取ったらしい。 交通事故、と漠然と伝えられただけなので、飲酒運転に巻き込まれたとか、轢かれそうになった子供を助けたとか、自分から飛び込んだとか、そう言ったことは想像に委ねるしかない。 真実は、知りたいようで知りたくない。 結局そんなもの事実を見る側面で変わってくるのだから、きっと皆自分の中で、自分の中の枢木スザクを作るのだ。 放課後、俺たちはこのまま通夜に向かうことになっている。 昼間の空は、場違いなくらい、青く澄み渡っていた。 「手紙来てたわよ」 家に帰ると、母さんにすぐそう言われた。 「差出人が書いてなかったんだけど、心当たりある?」 テーブルの上に置かれた分厚い封筒。 『ルルーシュ・ランペルージ様』 宛名に汚い字でそう記してあった。 それを持って自室へと行き、ベッドに腰掛け封を切った。 中には昨日の日付が書かれたルーズリーフと、小さく折りたたまれた原稿用紙が入っていた。 10年後の自分へ 10年後のおれは、今何をしていますか? 先生に聞いたら、10年後は17歳だから高校2年生だと言われました。 高校2年生だからって言われても、うまくそーぞーできません。大人とはちがうというのは分かるけど、まだこどもなのかな。 とりあえず背はのびているとうれしいです。 でも、おれはおれだといいなと思います。 おれには今すっごく大切な友達がいます。 お父さんもお母さんももちろん大切だけど、もっともっと大切な友達です。 おこるとこわいけど、すっごくきれいに笑います。 今も見ていたら、にらまれました。 まじめに書けと、口パクで言われました。 そんなやつです。 おれなんかが何もしなくても、自分のことは自分でやるしっかり者だけど、とてもさみしがりやなのを知っています。 ずーっといっしょにいて、おれがまもってあげれればいいなと思います。 それぐらい強くて、たよれる男になりたいです。 それがムリなら、笑ってるだけでもいいです。 俺が笑うと、あいつも笑います。 ほら、また笑った。 10年後のあいつのそばに、おれはいますか? あいつは、おれは、幸せですか? ルルーシュへ お元気ですか? この手紙は僕が死んだら、君へ届けてもらうよう、信用のおける人に頼むことにします。 ちゃんと届いてるといいな。 思い立ったから、授業中だけど君への手紙を書こうと思います(ちなみに今は日本史) 君に送る最初で最後の手紙だね。 君は今何歳になりましたか。 僕はまだ17歳。君の誕生日も終わったから、君も17歳だよ。 今は冬から春になる一番寒い時期だけど、この手紙が届くのはいつだろうね。 夏がいいかな。でもお葬式は暑くて大変そうだね。 でも僕は夏が好きだし、縁起とか気にせずに向日葵を飾ってほしいんだ。 昔、小学校の花壇に植えた向日葵は、どうなったんだろう。すっかり忘れていたけど、帰りに見に行ってみようかな。 そうそう。もう作文は読んだと思うけど、僕のこと覚えてた? 小学校の入学式、僕に始めて声を掛けてくれたのは君だった。 あの時の君の姿は今でも鮮明に思い出せる。 それがまさか高校まで一緒だなんて驚きだね。 ちなみに今君は僕の後ろの席に座ってます。 今も寝ています。 君は僕にとってずっと、友達以上に大切で特別な存在だったと思うんだ。今だから言えるんだけどね。 実は初恋なのかもしれないって今思った。ただ君のことが忘れられないだけかな。なんか無性に恥ずかしくなってきた。 だって君は僕のはじめての友達だし。 クラスが離れたら急に疎遠になっちゃったけど、今は思う。もっともっとたくさん、色んなことを話したかったなって。 君と同じ時を共有したかった。 死んでからしかこんなこと言えないなんて、僕は本当に意気地が無いと思う。 今、ちょっと後ろを振り向けば君がいるのに。君に改めて声を掛ける勇気すらないんだ。 この数cmさえも越えられない。 いや、本当はもっと大きな距離なのかも。時間が作った距離って、想像以上に厳しいね。 高校を卒業したら、とうとう二人別々なのかな。 っていうかそもそもこの手紙を君が受け取る時点で、僕はこの世にいないのか。 そう考えると怖いね。 生きてる僕が、僕が死んだと仮定して書いている。 ある意味遺書なんだけど、僕の遺書は君に読んでほしい気がするから、強ち間違っていないような気もするんだ。 もし明日、僕が死んだらどうなるんだろう。 この教室に埋まらない空席が出来る。 中身はあるのに、開かれることのないロッカーが出来る。 うちの家のリビングの椅子が一つ余る。 僕の部屋は住人がいなくなる。 服や、靴、自転車も。 僕の生きた証拠は残るけど、僕だけがいない。 記憶や記録、思い出も残るけど、僕はいない。 人の死とか人との別れって、きっとそういうことなんだよね。 ちょっとずつちょっとずつ、色々なところに空席が生まれる。 でも人は強いから、そこを埋める術をまた探すんだ。 それが立ち直る、前を向くってことなんだね、きっと。 そう思うと淋しいな。 君にとって、僕って何なんだろう。僕が占めてた割合はどれほどだったんだろう。 僕が死んだら君はどう思うんだろう。想像つかないや。 幼い頃に交わした言葉は、きっと時の流れに消えてしまった。 それでも僕は。 僕は今君が幸せならそれだけでいい。 君の笑っていればそれだけでいい。 こういうのって、何て呼べばいいんだろうね。 僕にはよく分からないけど、とても心があたたかいんだ。 手紙を握り締め、俺は部屋を飛び出した。 行かなくては。行かなくては。 『お前、名前なんてゆーの?』 『ルルーシュ・ランペルージ』 『る、るー?』 『ルルーシュ・ランペルージ』 『すっごく言いにくい名前だな、えっと………るるーしゅ』 『そういう君の名前は?』 『くるるぎすざく!!』 『君の名前だって、る、が二回続くじゃないか。言い難い』 『そうか?でも別に俺のことはスザクでいいし。な、ルルーシュ』 『………あぁ、よろしくな、スザク』 翡翠の大きな瞳。くるくるの茶髪。 そしてまるで太陽のように眩しい笑顔。 夜の学校は、それだけでおどろおどろしかったけれど、花の咲いていない冬の花壇は、より一層淋しさを醸し出す。 白い息を吐き出し呼吸を整えてから、土に散らばる向日葵の種を拾った。 墓の横にでも、植えてやろう。 そうすれば毎年夏になると、あいつの笑顔のような向日葵が咲く。 目を閉じると、笑ったスザクの顔が浮かぶ。 「気付いてやれなくて、ごめん」 種を握った拳を額に近づけ、声を押し殺し泣いた。 「もっと話せばよかった。笑えばよかった」 あぁ、俺のはじめての友よ。 君の声は確かに届いた。 どんな時の壁も飛び越えて。 「これが恋なら、どんなに………」 P.S. そうか。これが恋なのか。 Title by "ダボスへ" [*前へ][次へ#] [戻る] |