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GEASS
僕らは明け方に恋をうたう (スザルル)
ユフィ友情出演。
言わせたいことを言わせるためだけの小話。つまり雰囲気小説。






―――スザク

この世で、その名を呼ぶ人は皆いなくなってしまったというのに。
頭の中で、まだ君の声が木霊するよ。
人が最初に忘れるのは、声、らしいね。
確か君が、本を読みながら僕に教えてくれたんだ。
だから僕は恐ろしくて、何度も何度も君の声を再生する。
でも、皮肉だね。
いつでも再生されるその声は、僕であって僕でない者を呼ぶ、君の声なんだ。






「ねぇ、スザク」

机の書類と睨めっこをしていたユフィが、ふいに顔を上げた。
桃色の髪が揺れる。
良い匂いがした。

「なんだい?」

スザク、とプライベートの名で呼ばれたから、今ここに主従関係は無い。ただのユフィと、ただのスザク。
だから僕は砕けた口調で問い返した。
ユフィは一拍間を空けて、僕を真っ直ぐ見つめた。

「あなたは、人を殺したことがありますか?」

無垢な瞳と、純真な心。
胸がざわめく。時が止まったような衝撃。
僕は目を見開いて、立ち尽くした。
口が開いたまま、言葉も出なかった。

「………ごめんなさい。変な聞き方よね。だってスザクは軍人なのに」

ユフィが苦笑した。それはいつものユフィだった。

「あっ、いや、だから………その、」

「いいの。私が話したかっただけなの」

「………え?」

「私はたくさんの人を殺してる。もちろん間接的にだけど」

そう言って、ユフィは訥々と語り始めた。

「例え間接的でも、人殺しには変わりないわ。人は生きてるだけで、きっと誰かを殺してる。だから、誰かを殺すことで誰かが幸せになるなんて、ありえないと思うの」

それは全てを否定する言葉で。
彼女の生まれや育ち、そして行くべき未来。
もちろん今、僕のやっていることすらも。

「軍のやるべきことは分かってるわ。軍だって、国の平和を護るために作られたんだもの。それが役目。建前でしかないのかもしれないけれど」

ユフィは瞳に影を落とし、息を吐いた。

「ごめんなさい、スザク」

「………………」

「あなたに向かって伸ばした私の手は、もうすでに、血で汚れてしまっているの」

それがブリタニア皇族という身分に生まれた者の宿命。
溢れんばかりの涙を湛え、それでも尚、気丈な姫は揺らぐ騎士の瞳を真っ直ぐに見つめていた。






―――あぁ、それは僕の方だよ。ユフィ。






「………スザク?」

愛しい人の声で目が覚めた。
夢を見た。
取り戻すことの出来ない、救えなかった彼女の夢を。

「………、………ルルー、シュ」

横を向くとベッドの脇の椅子に、ルルーシュが座っていた。
あの真っ白なブリタニア皇帝の証を纏って。
すっと、彼の細く長い指が僕の頬に触れた。

「泣いてる」

どうやら寝ている間に、涙を流していたらしい。
僕は起き上がりながら、自分で目尻を拭った。

「夢を見たんだ」

ユフィの。
そう言うと、彼は大きな目を余計に大きく見開いた。

「君はさ、僕やナナリーに愛を囁いたその口で、ユフィに呪いの言葉を贈ったんだろ」

ルルーシュはゆっくりと目を伏せた。

「ごめん。ただの八つ当たりだ」

ルルーシュの頭に手を置いて、数回軽く叩く。
ルルーシュは顔を上げ、哀しそうに微笑んだ。
伸ばしたけれど、掴めなかった腕。
救いたかったけれど、護れなかった人。
恨む相手は彼ではなくて、でもただもがくだけでは何も変わらないから。
僕らは僕らの方法で、彼女の意思を汲む。
前へ進もうとした彼女の。
血に悩み、血で傷ついた、血へ抗い続けた彼女へ敬意を評して。

「ただ、少し、さ………」

僕はゆっくり、ルルーシュの肩に自分の頭を乗せた。

「このままでいさせて」

細い肩。ルルーシュは何も言わずに、僕の頭へ手を乗せた。

「本当に、ちょっと前まで笑っていたんだよ。僕と話をしてたんだ。来るだろう未来、をさ。朝ごはんを食べて、美味しいとか言ってる、ただの女の子だったんだ」

彼女に罪は無い。
そう彼女は何処までも、ただのユフィで。
きっとそれはルルーシュも感じただろう。

「それが、あっという間に、冷たくなって………」

今でも鮮明に思い出せる。
伝えたかったことを何一つ、伝えることの出来なかった彼女の姿。
もっと話したかった。色々なことを。
それはきっと僕と彼にも言えることで。
お互いに話すことをしなさすぎた。
もっともっとたくさん、彼に言うべきことがあったはずなのに。ここまで来てしまった。何も出来ないまま。

「彼女の時を止めたのは、俺だ」

「うん。だから今日、僕が君の時を止める」

涙が、彼の服を濡らす。
止まらない。だって、今目の前にいる彼も、また。

「もうお前を甘やかす奴はいなくなるんだな」

「そうだね。優しくしてくれる人も、こうやって肩を貸してくれる人もいなくなる」

誰かに認められたいとか、理解されたいとか、褒めてほしいとか、許してほしいとか、そういうの纏めて全部。
忘れることなんて出来ないけど。
二人で背負うって手段は無くしてしまったから。
自分の持てる量だけ持って、前を向くって決めたんだ。

「今の内に、泣いておけよ」

「君もね」

「俺は泣き尽くした」

「そう?」

頑張れとか、ありがとうとか、お互いに言うべき言葉はたくさんあるんだろうけど。僕らにはもうそれすらも必要なくて。

「よくやったよ、君は」

「お前もな」

軽く相手の頭を叩き合った。

「あぁ、ルルーシュ。生きてるって、あったかい」






ねぇ、ユフィ。
あの時、まだ君には僕の秘密を話していなかったよね。
てっきり見破られたんだと思ったよ。
僕の手が真っ赤に染まっていることを。
君の手は汚れてなんかいない。
本当はそう言いたかったんだけど、言えなかった。
僕はまた、自分の手を緋色に染めに行く。
君は軽蔑するだろうけど、もう決めたことなんだ。
僕はいつだって、忘れないよ。
君の手が、瞳が、血が、あたたかかったことを。






―――スザク

風に乗って、音が聞こえる。
僕ではない、誰かを呼ぶ声。
振り向いたその先には―――






Title by "ダボスへ"

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