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GEASS
何もかも駆け抜けた春に (スザルル)
スザ子→高1 ルルーシュ→高3
甘酸っぱい青春群像劇を目指してパラレる。






―――大丈夫。僕は絶対に君のことを忘れはしない。僕らはまた会えるって信じてる。






闇を思わせる艶やかな漆黒の髪。真っ白な肌。大きな紫水晶の様な瞳。
私が見間違えるはずが無い。
忘れたことなど一度も無かった。
私の初恋の人ッッッ

「ルルーシュ・ランペルゥゥゥゥゥゥジ!!!!!」

ギリギリで受かった進学校の晴れの入学式。
壇上で思ってもいない言葉をつらつらと重ねる彼を見て、私の胸は高鳴った。
運命という胡散臭い陳腐な言葉すら、私の脳裏では光り輝いた。
式が終わってすぐに体育館を飛び出し、彼を追いかけた。
やっとの想いで見つけた瞬間、私の中の理性の糸が切れた。
高鳴る胸の鼓動。
今までに感じたことが無いくらい、胸が騒ぎ踊っている。
顔が紅くなる。瞳が輝く。
ねぇ覚えているでしょう?私のことを。
私は、一時もあなたを忘れたことなど―――

「………………誰だ、お前?」

人を見下した様な侮蔑の篭った紫の眼差し。
思わず繰り出された私の右拳を、彼が避けられる筈も無く………
彼は脳震盪を起こし、保健室に直行した。






「がんばれー副会長ー」

気怠い4時間目の自習。
校庭に向かって叫ぶ、クラスの女子の黄色い声。
窓際に座る私は、頬杖を付いたまま目線だけを外に向けた。
へらへらと笑いながらも、必死に肩で息をしている情けない男を視界に捉える。
校庭で長距離走をさせらているようだった。
暑くなってジャージを脱いだのか、その長い四肢が半袖短パンから艶かしく伸びている。
男の癖にひ弱で、軟弱。しかも女顔。
モテるのは分かる。だって顔はいい。
でもその性格は許し難い。
私が一体何年間、奴に恋してきたと思ってるんだ。

「ルルーシュ先輩、大学何処なんだろねー」

「え?うち付属だし、そのまま大学上がるんじゃないの?」

「だったらいいんだけどさー。また会えるから」

「そっかもうすぐ卒業か………先輩たち」

卒業。その言葉に、胸がズキリと痛んだ。
幼い頃は、年の隔たりなど気にもしなかった(そもそも同い年だと思い込んでいた)
ただ奴が引越してしまっただけの話。問題は距離だけだった。
でも今、漸く再会を果たしたというのに、また奴は私の目の前から消えてしまう。
同じ時を歩めない。それが年の差というもの。
このままではいられない。
奴が私のことを覚えていようが、いなかろうがそんなの関係ない。
ケジメをつけなくては。幼い恋心の。






自販機で牛乳を買う。
校長が長話をしている体育館の前を素通りし、私は屋上へと向かった。

「せーんぱい」

重い扉を開けると、制服の胸の部分に卒業生らしい花を付けた奴がいた。

「………、………お前か」

振り向いて私の顔を見るなり、奴は顔を顰めた。

「覚えていて下さったんですね」

「お前みたいな無礼な女、忘れようと思って忘れられないだろ普通」

人気ナンバーワンの副会長を殴り、脳震盪にさせた女。
私の顔と名は入学して一日で全校生徒に知れ渡った。もちろん悪い意味で。

「先輩のおかげで、悠々自適な高校生活を送れていますよ」

笑顔で彼の横に立ち、柵に寄りかかる。
まだ少し冷たい風が、セーラー服のリボンを揺らす。

「………で?何しに来たんだ?お礼参りか?」

馬鹿にしたような笑みを浮かべ、奴は言った。

「はい、コレどうぞ」

私は持っていた牛乳パックを彼に渡した。

「なんだよコレ」

「餞別」

奴は頭を抱え、大げさに息を吐き出した。

「先輩は怒りっぽいから。ちょっとはカルシウム取った方がいいですよ」

満面の笑みで、奴に牛乳を押し付けた。
何か言いたそうな顔をしていたが、結局諦めたらしい。
どうやらこの数瞬で、私には何を言っても無駄だということが分かったのだろう。

「お前、顔は良いんだから、その妙な性格どうにかしろよ」

奴の右手が私の頭に伸びてきて、驚いて肩をビクリと揺らしてしまった。
くすりと奴が笑う音が聞こえたかと思うと、ゆっくり頭を撫でられた。
あたたかくて大きな、男の人の指だった。
でも度がすぎて、元々癖毛な茶髪がもっとぐしゃぐしゃになってしまった。

「なっ、ちょっ、やめっ!!」

「あはははは、なんかお前犬みたいだよな」

そういう自分は気位高い黒猫の癖に。
自分より少し高い位置にある頭。細身だけどしっかりとした体躯。低い声。
昔は私が男に、奴が女に間違われていたのに。
どうしようもなく、彼は男だった。

「どうした?急に静かだな、お前」

目の前のこいつは私とは違って、きっと、色んな女の人を知っている。
悔しくないと言ったら嘘だけど。
馬鹿みたいじゃないか、私だけが浮かれて、さ。

「先輩」

「何だよ、改まって」

驚いた奴は私の頭に乗せていた手を離した。

「ごそつぎょーおめでとーございます」

それだけ言って、私は踵を返し、扉へと駆けた。
俯いたまま顔を上げなかったせいで、奴の顔を見ることは出来なかった。
いいんだ。これで。
後腐れなく。初恋は汚れないままの方が、都合が良い。
奴にはいつまでも、私の中で王子様でいてもらう。

「おい、待て!」

待てと言われて、素直に待つ奴がいるか。
半ばやけくそ気味な私は、奴の声には耳を傾けず扉に手を掛けた。

「受け取れ」

そう言って投げられた何かが、扉に当たり、こつんと鳴った(彼の力でよくもまぁここまで届いたものだ)

「飴?」

床に転がるそれは、所謂ママの味で知られるキャンディーだった。

「餞別」

太陽が眩しくて、よく顔が見えなかったが、多分嫌な笑みを浮かべているんだろう。
私はそれを拾い上げた。
だが、それは飴にしては形もおかしく、何より軽すぎた。
包みを開けると、そこには銀の指輪が眠っていた。
慌てて顔を上げる。

「………あの時ちゃんと思い出したよ、お前のこと。枢木スザク」

優しい声音だった。

「随分変わってて正直驚いた。もう10年も経ってるんだ、当たり前だよな」

背も髪の毛も伸びて、胸もあって。
私だって、女になったんだ。

「なぁ、スザク………」

ルルーシュが昔の呼び名で私を呼んだ。
嬉しくて涙が溢れた。

「俺と………」

「ルルゥゥゥゥシュゥゥゥゥ!!!!!」

指輪を包みごと握り締め、力一杯ルルーシュ目掛けて走った。

「私と結婚しよう!!!!」

「ばっ、ばかっ!!そういうのは男の方から言うってのが社会の基本ルールで!!」

顔を真っ赤にするルルーシュの首に勢いのまま飛びついた。
もちろん彼が受け止められるはずもなく、そのまま後ろに倒れた。
彼の情けない潰れた声と、二人分の体重が床に叩きつけられる音が聞こえた。
押し倒してしまった彼の顔に、ぐいっと自分の顔を近づける。
驚くルルーシュが瞬きを繰り返す度に、その長い睫毛が光を散らす。
その姿があまりにも綺麗で、可愛くて。
私は往年のドラマよろしく、ニコリと笑って言葉を紡いだ。

「じゃあ、ルルーシュ。セックスしよ?」

「〜〜〜〜〜あぁ、もうやだ。この漢前」

彼の目尻の涙を舌で拭ってやると、ルルーシュはまた情けない奇声を発した。
まぁ、つまり………不束者ですが、あなたを一生愛することは誓いますよってこと。






これからも末永くよろしくね、私の白馬の王子様。






Title by "ダボスへ"

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あきゅろす。
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