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GEASS
たくさんの星が落ちたら (スザルル+ジノ)
相も変わらずルルーシュ不在。
現代風パラレる。






友人からの連絡があり、急ぎ彼の元へと自転車を飛ばした。
草木も眠る丑三つ時のことだったが、そんなの関係ない。
自分から彼に連絡を入れることは多々あるが、彼が自分から連絡を寄こすなんて、とても珍しいことだ。というより、非常に貴重な体験。しかも彼に会うのも久しぶりだ。
内心結構喜んでいたりする。内緒だけど。
彼を好きだと気付いた時には、もう遅かった。
彼には恋人がいた。
それは俺と彼の、数少ない共通の友人の一人。
恐らく、想いを伝えるチャンスなど無数に転がっていたのだろう。
誰かと誰かが付き合うとか、そういったことは、結局はタイミングの問題でしかないんだと思う。
だから今は彼らを見守ることに決めた。
どちらも大切な俺の友達だし。傷付く姿なんて見たくないし。
いつまでも三人で馬鹿みたいに笑えていれば、それだけでいい。
そんなことを考えながら、自転車をこいでいると、彼の住むアパートが見えてきた(自転車だと30分もかかる距離なのだけど、普通の学生には電車賃さえも惜しいのだ)
小さいけれど可愛らしい外見のアパートの前に自転車を止め、外の階段を上ろうとした。

「やぁ」

階段の一番下の段に、彼の恋人、枢木スザクが座り込んでいたのだ。
片手を挙げて挨拶をしてきた彼を見て、俺は暫し考えを巡らせる。

「………、ルルーシュと喧嘩でもしたの?」

「追い出された」

暗くてよく見えないが、彼の頬は心なしか腫れているようにも見える。
そういえば、最近二人は一緒に暮らし始めたとか言っていたな(リヴァルからの情報だったから、完全に信じてはいなかったけど)

「何したの」

「なんだっけ………忘れた」

喧嘩のきっかけなど、所詮そんなものだ。
ヒートアップしてお互いの欠点などを言い合い始めると、出発点など在って無いに等しい。
後から考えてみれば、何と下らない、と一蹴できるだろう。時間が解決してくれる時もある。
しかし素直じゃない者同士の喧嘩とは、時間の流れさえも敵に回すほど厄介な代物なのだ。

「で、スザクはどーすんの」

「どーすんのって?」

「これから、さ」

スザクは空を見上げて、うーむと唸った。
それから徐に懐に手を伸ばし、煙草を取り出して吸い始めた。
冬の冷たい空気に染まり、浮かび上がる紫煙。

「どーしよっかなぁ………」

俺は煙草を吸わないから、それの美味しさというのがいまいちよく分からない。
前に、スザクに美味しさを問うてみたが、彼はそういうんじゃないんだよと、少し哀しげに笑っていた。

「っていうか、スザク。お前禁煙は?」

「今、休憩中」

「禁煙が休憩だっての」

げしっと、彼の太腿を蹴飛ばした。
全然痛くも無いだろうに、わざとらしく彼は言った。

「ひどーいジノ。この人非人」

「どっちが」

だがスザクはすぐに煙草の火を、足で揉み消した。

「目指せ健康優良児」

「今更?」

「どんなになっても、遅すぎるってこと、あんまないんじゃないかな」

って思ったの。
スザクは最後に俺を上目で見つめた。
大きな翡翠の双眸を向けられ、一瞬たじろいだが、すぐにその瞳には何も写していないことに気が付いた。

「なんか疲れちゃったんだよね」

「ルルーシュとの生活に?」

「うーん………何て言えばいいのかな。ルルーシュってほら、何かとマメっていうか変に神経質じゃん。それなのに彼自身のことになるとガサツになるし。僕より自分を大事にしろよって感じ。しかも無駄に頭が良いし、異常にプライド高いから、引き所を見極められない。何度危ない橋を渡ったら気が済むんだろう。っていうか、僕がどんなに言っても賭けチェスも競馬も株取引も止めようとしないし。損している訳ではないんだからいいだろうって、そういう問題じゃないでしょ。そりゃいざとなったら僕がルルーシュを護るけど、出来ることなら危ないことには首突っ込まないで、平和で安全な暮らしをしていて欲しいんだ。しかも勝手に実家帰っちゃうし。あのシスコンどうにかしてくれないかな………いつになったら、彼の世界の中心がナナリーから僕に変わるんだろう」

スザクは大きく肩で息をし、一拍おいた。

「だけど………」

「………………」

「そんな彼が好きなんだよね。僕もどーかしてるよ」

雲の切れ間から、月明かりが差し込んだ。

「つまり、惚気か」

「とは、また違うんだけど………おかしいな」

それを言うなら、俺もどーかしてる。
だって、俺もそんな彼が好きだ。
もっと自分を大切にして欲しい。
自分を見て欲しい。
そんなの、好きだからに決まってる。

「おかしいよね、僕たち」

「たち?」

「だって、ジノもルルーシュのこと好きでしょう」

バレてたか。
ニヤニヤと含み笑いを浮かべるスザクと目が合い、俺は自分の頬が紅潮するのが分かった。

「僕、ジノのそういうところ好きだよ」

「止めてくれ、気持ち悪い」

ケラケラとスザクは楽しそうに笑った。

「いや、伸ばすべきだよ。良い所は」

「スザクは最近、ルルーシュに似て皮肉屋になったからな」

「うん。僕もそう思う。伸ばすべきだよね、良い所は」

嫌な所も、良い所も、あって当たり前だ。
だから誰かを好きになる。
好きな気持ちは止められない。
そんなところも大好きだ。

「そういや、ジノは何しに来たの?」

「あっ、ルルーシュに呼ばれてたんだった」

俺は手に持っているビニール袋を確認した。
彼の大好きなプリンを手土産に。
何だか、淋しくて泣いてしまいそうだったから。

「早く行かないと」

「………、じゃあ僕も戻ろうかな」

立ち上がるスザクの、少し低い位置にある頭を軽く叩く。

「………ジノの、そういうところは嫌いだよ」

「長所だと思ってたんだけど」

してやったりと笑ってやると、スザクにふくらはぎを蹴られた。
正直、かなり痛い。

「なんだよ、ジノなんてただ図体デカイだけのくせに」

「お、言ったな。じゃあ、どっちがルルーシュに喜ばれるか勝負だ」

「僕に決まってる。だって僕、彼氏だもん」

「俺、プリン付き」

それは危ういな……スザクはそう呟いたかと思うと、階段を全速力で駆け上がった。
俺はスザクの背中を慌てて追いかけた。
優しくて我儘な皇子様は、きっと涙でぐちゃぐちゃになった顔で、ちょっと困りながら、こう言うんじゃないかな。

―――おかえり






Title by "ダボスへ"

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