小説 キオク 時が経つにつれて、忘れていくのだろうか? そう言うならいっそ時なんて止まってしまえばいい... そんな思いは流されるだけで、同じような朝を何度も迎えるしかなかった。 不安は募るのに少しも動けない。 そして完全に夢から覚めたように、あたしは毎日を過ごすようになった。 当たり前のように勉強をし、恋人に愛され、 求められることで安心していた。 いつだって応えるのは簡単だ。 傷付かないために自粛した主張はいつからの癖だろう? 小さい頃読んだ絵本の主人公のようになりたかった。 自ら傷つき得るものの大きさを今更思い知るなんて。 強いフリをした自分は、痛々しいくらい惨めだ。 誰にでも良いから抱かれたかった。 自分の存在を愛しいと思われたくて。 あたしは生まれて初めて泣きつかれて眠る夜を覚えた。 [*前へ][次へ#] |