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003



「何するのよー、話は終わってないんだから」

「あいつと仲直りして来いよ。こんなところで油売ってないでさ」

「…えー」

「ドタキャンした理由だってじっくり話し合えば、教えてくれるんじゃねえの? 好きなんだろ? あいつのこと」

「うッ、それは…好きだけど」


「だったら行って来いよ。さっきから、正門で弘樹もお前のこと待ってるみたいだしさ」


僕の一言に彼女は、薄く目を見開いて窓際に駆け寄った。
 
正門前で待ちぼうけ食らっている男子生徒に「馬鹿じゃないの」と不貞腐れ気味で呟いていた。


馬鹿なのは彼女も弘樹も一緒だと、僕は思う。


行くか行かないか迷っている彼女の持ち物を通学鞄に入れてやり、僕は彼女にそれを渡した。
 

「戸締りはしておいてやるから、さっさと行けよ」

「け、けど」

「……ったく、どうして躊躇うんだよ。弘樹のこと1番知ってるのはお前だろ? 行ってやれよ」


通学鞄を押し付けてぶっきら棒に言えば、彼女は泣きそうな顔を作った。


本当は不安だったくせに、本当は仲直りしたかったくせに。

ずっと意地を張っていたことぐらい僕には分かった。


彼女の表情を見ないように僕は席に座りった。

それでもまだ立ち尽くしている彼女に、僕は呆れ果てたが気持ちが分からないこともないので、仕方なく言ってやった。

 
「さっきの悩み事、お前にだけトクベツに教えてやるよ」

「…え?」

目を丸くする彼女に、構わず言葉を続ける。


「好きな奴がいるんだよ。けどな、そいつは既に彼氏作っていて告白するに出来ない状況にいるわけ。
しかもそいつは、いつも近くにいるのに好きすら気付いてもらってないんだ。もうすぐ大学受験やら、卒業式やら忙しくなって会えなくなるのに、告白すらデキねぇ自分がとても情けなく感じて悩んでたわけ。此処まででご質問は?」


「いっぱいあるけど出てこない」

「よし。ないなら、行って来い。お前や弘樹は、僕と違うだろ? 少なくとも、気持ちが通じ合ってるんだし…羨ましいって思うぐらい」


自然と笑みが出る。
 
彼女は、僕の笑みに安堵したのか勇気付けられたのか大きく首を縦に振って通学鞄を肩にからっていた。

ゴムボールのように弾んだ足取りで、教室から出て行く。まったく手間の掛かる奴だ。

僕がそう思っていると彼女が戻ってきた。


忘れ物でもしたのだろうか?




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