002
そして口を開いた彼女から出てきた言葉は意外な質問だった。
「ねえ、どうしてさっき上の空だったの?」
てっきり、僕の悪口を言ってくると密かに身構えていた僕は拍子抜けしてしまった。
それに予想していなかった質問に困ってしまう。どうして上の空だったか、考え事をしていたとしか彼女には伝えられない。彼女にそう言えば、今度は考え事は何かと聞いてくる。
やっぱり僕は困ってしまった。
左頬を掻いて、どう口実をしようか悩んでいると彼女は身を乗り出してきた。
「大学受験控えてるのに、悩み事抱えて苦しくない?相談に乗るよ?」
僕等は今、高校3年生だ。
大学受験が控えている僕等にとって悩み事を抱えているのは非常に負担な事。
彼女はそれを知っている。
強気な彼女は心優しいものだから、他人が余計なお節介と思うことでさえお世話したがる。
良くも悪くもある彼女の性格に、僕は苦笑いした。
「何でもねえよ。何でもねえ」
「…そう? そんな風には見えないけど」
「お前は俺のことじゃなくて、弘樹の心配しろって」
「だ、誰があんな奴の心配なんかするもんですか! あの馬鹿なんて知らないし!」
顔を真っ赤にして怒鳴る彼女の声の大きさに、僕は耳を塞いだ。
喜怒哀楽が激しいオンナだ。
ちなみに弘樹というのは、彼女の彼氏で只今喧嘩中らしい。
だから弘樹という名前を出した途端、彼女は烈火のごとく怒った。
怒るのはいいけど、声の大きさについてもう少し考慮してもらいたいものだ。
「あいつなんて、あいつなんて…ムカツク。確かに優しいし、カッコイイし、やんちゃで子どもっぽくて胸キュンいっぱいだし」
「明らかにそれ、弘樹に対するノロケだよな?」
「でも酷いんだから! あいつ、この前…デートいきなりドタキャンして…理由聞いても、『べつに』だけなのよ? ムカツク」
怒りで我を忘れるとは、このことなのだろうか。
彼氏の悪口に花咲かせていた。
ウンザリしてしまう。
彼女の愚痴を聞いていても、ところどころ彼氏のフォローのつもりなのか『優しい』やら『人が良い』やら単語が飛び交っていた。
結局のところ、彼女は弘樹のことが好きなのではないか。
ノートを閉じて丸めると僕は彼女の頭を、軽く叩いた。
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