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004
 
     

「どうしたんだよ」

「あのさ、あのさ」

「……何だよ」

「駄目元でも告白してみらイイと思うよ。きっと通じるんじゃないかなって思うんだ。だって、あんた好きな奴のこと悩むほど想ってるんだし?」

 
ニコニコと笑って彼女は僕に言ってくる。

固まってしまっている僕に、さらにヒトコト。


「ありがとう。今のあんた、チョーカッコイイよ」


満面の笑顔で彼女は言いたいことだけ言うと、またゴムボールのような弾んだ足取りで教室を出て行ってしまった。
 
僕は遠ざかって行く彼女の足音で飛んだ意識を取り戻すことに成功した。

閑寂な教室に取り残された僕は、脱力して窓際に向かう。


正門では、彼女と弘樹が顔を合わせているところだった。何やら気まずそうな顔を作りながらも、お互いはにかんでいる。


林檎のような真っ赤なほっぺに染めている彼女の姿に、僕は目を細めて吐息と一緒に悪態を付いた。


「バーカ。通じるわけねえじゃん、お前のことなのに」


ありがとうなんて、チョーカッコイイなんて、笑顔で言って欲しくなった。
 
本気にしてしまうではないか。
 

込み上げる熱い気持ちにジッと堪える。

時々、僕は僕自身のことをお人好し以上のお人好しなんじゃないかと思う。
今さっきのことだってそうだが、彼女と弘樹が喧嘩しているなら、僕は彼女の心につけこんでしまことだって出来たのに。

僕には出来なかった。
 
それはきっと、彼女自身が望んでいないことだろうし、彼女を傷付けてしまう。僕にとって彼女は、他の女子生徒よりも大切でトクベツだから、傷付けて悲しむ姿なんて見たくない。


結局、僕は今の僕のまま、何もしない方が彼女の為であり僕の為なのだ。


本日3度目の溜息をついて、彼女を見つめていると、弘樹と楽しそうに話していた彼女は僕に気付いた。
 
きっと仲直りしたのだろう、嬉しそうに手を振る彼女に、苦い思いを抱きながら僕は彼女に手を振り返す。


明日、彼女に会ったら是非言ってやらなければいけない。
 
ちょっと皮肉を込めて、冗談っぽく彼女に笑って……僕は明日の為に声を出して練習することにしてみた。


「良かったな。ちゃーんと、大好きな弘樹と仲直り出来て」

 
静かな教室に僕の声だけが響き渡る。

皮肉を込めて言った筈なのに、ほんの少しだけ泣きたくなったことに、僕は途方にもなく困って苦々しく笑ってしまった。
 
 
End


⇒後書き



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