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015


  
 
 午前中の授業は移動教室はなく、平穏に教室で授業が行われた。
 

 昼休みを挟んで午後からはいよいよ、ジランダが身構えていた【マカ】の演習が行われる。
 ジランダは昼休みになると、主人に断りを入れて一番に演習場裏へと向かった。昨日、アルスと成功させた【マカ】を主人とも成功させたい。これ以上の失望と落胆を味わわせたくない、その一心で演習場裏にやって来たのである。

 昨日、物の見事に壊してしまった水晶柱を前に、ジランダは深呼吸。
 今日こそ主人の【マナ】を受け入れる覚悟を。【マカ】を生み出せる自信を湧かさなければ。成功させて汚名返上しなければ。


 だけどもしも、失 敗 した ら ?
  
 
 ブルブル―。

 瞬間、自爆してしまった事故現場と大失態、溜息をつく主人の姿が脳裏に蘇った。ジランダは大きな怖じを抱く。
 もし失敗してしまったら…、もし、もしも、前回以上の大失態を犯してしまったら、せっかく手を差し伸べてくれた主人の顔に泥を塗るような真似をしてしまったら。自分が一番のパートナーだと言ってくれたのに、また“使えるドラゴンが手に入るまでの代用品だな”と言われてしまったら。


 ジランダは懐古の念を抱く。
  
 自分はベルトルの父に捕獲された逸れドラゴンの子どもだった。親の顔は憶えていない。気付けばひとり、両親とも仲間とも逸れひとりぼっちだった。
 ベルトルの父は有名な“ドラゴン使い”なのだが、同じ道を辿る息子のために適当にドラゴンを捕獲。たまたま捕獲された自分が他のドラゴンよりも魔力が高かったため、それを息子に与えた。

 他のドラゴンは多分、魔具の材料となるために売られてしまったと思う。
 
 
 彼の父は言った。「今のところ、このドラゴンが使えるドラゴンだ」これ以上が出てきたら、それを捕獲して自分の物にしてしまえ。これは捨ててしまえ、もしくは売ってしまえ、と。 
 息子は従順に従い、「使えるドラゴンが手に入るまでの代用品だな」と檻に入っている自分に吐き捨てた。
 

 それが自分達の出会い。


 決して美しい出会いではないし、良き思い出ともいえない。
 けれど、自分は向こうの意志により選ばれ、生き延びた。目前の子供に尽くすことでおざなりの存在意義を手に入れられるのならば、自分も身分を弁え、彼のために尽くそうと覚悟を決めていた。
 

 ―…それがラージャという魔力の大きなドラゴンに出会ってから、自分の存在が危ぶまれることになる。

 
 主人は強いドラゴンを欲していた。魔力の強いドラゴンに欲を見せていた。
 今はなくなったが、当初はアルスが持つには勿体無いと口癖のように言っていたっけ。腹の裏では欲していたに違いない。ラージャという存在に惹かれつつも、自分を選んでくれた主人。その主人の期待に応えることもできなければ、自分なんて、自分という存在なんて。
  
 
 はぁ…、卑屈になる自分にも疲れてしまう。

 前向きに考えよう、ジランダは頭を振って前方を見つめた。砕けた水晶柱は前日、アルスと組んで破壊したもの。彼のおかげで【マカ】の感覚が幾分、取り戻せたと思う。後は気持ち次第だ。今日こそ成功させよう。今日こそ、そう、今日こそ。

 気持ちを引き締め、軽く空を飛行しようと翼を広げる。


 同時に背後から気配。


 『?!』ジランダは振り返る前に、輪が作られたロープで口を縛られ、強い力で後ろに引かれる。バッサバッサと翼をはためかせ、懸命にロープを切ろうともがく。すると棍棒らしきもので、片翼を殴られ、ジランダはその場に落ちた。




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