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016



  
 一体全体何が起きたのだ。

 目を白黒させていると、「よし回収だ」「檻をこっちに」頭上から二人の男の声。見上げれば、引き締まった肉体が二つ。清掃員の格好をしているが、手際の良さは清掃員とかけ離れている。


 まさか、彼等は朝のSHRで伝達された―…。



「貴様等っ、俺のドラゴンに何してる!」



 ハッとジランダは首を持ち上げ、聞こえてきた声を辿る。そこには仁王立ちして、憤りを見せている主人の姿。
 何故此処に、瞠目するジランダを余所に、ベルトルは捕獲されそうになっているジランダを一瞥するなり、「貴様等ッ」噂の盗っ人かと吐き捨て、


「ジランダを返せ! そいつは俺のパートナーだ!」
 
 
 右の人差し指に雷撃を溜め、護身用の魔法を男達にぶつける。
 さすがは主人、護身魔法の威力は通常以上に強く、平均威力を超えている。
 
 が、しかし。左右に分かれ回避する男の一人が、ベルトルに向かってお返しだとばかりにスペルを唱えると、大きな風を起こして子供にぶつける。「ツッ!」暴風と化した風の塊はベルトルの身を包み込み、そのまま彼を持ち上げ校舎の壁に向かって放った。

 加速する暴風の中に投げ込まれ、壁に叩きつけられたベルトルはその場で両膝を崩す。
 『!!』男の腕にいたジランダはもがきにもがいて、主人のもとに羽ばたこうとするが、ぞんざいに檻に放り込まれたため、それが敵わなくなった。このままでは主人と永久的な別れを告げることになってしまう!
  


「ッ、ふざけるな…、そいつは渡さないっ…」
 


 !!!
 

 ジランダは格子越しに外の景色を見つめる。
 地面に爪を立て、大地を抉り、痛む体に鞭を打って、立ち上がるベルトルはよろっと足をふらつかせながらも、懸命に足を踏ん張ってみせた。「まだ立つか」男が指先を靡かせるように、そっと宙を撫で、再び風を呼ぶ。
 微風が強風に変わるというのに、ベルトルは子供騙しな護身魔法で対抗しようと術を発動。

 無理だとジランダは首を横に振る。
 対抗など出来ない。どうやら相手は魔法使いのよう、このまま対抗しても…、対抗しても…、主人が怪我を負ってしまう。だったら自分は「ふざけるな!」

 まるで自分の心を見透かしたように、ベルトルは喝破。
 身を小さくするジランダだが、ベルトルは構わず言葉を続ける。

「貴様を失うくらいなら、俺はこの職を下りてやる」

 何を言って…、ドラゴンは固唾を呑んだ。


「いいか。ジランダ…、貴様は俺と強くなると約束した。破ることは許さない」

 
 護身魔法ながらも、強大な電撃を指先に集めるベルトルは檻に閉じ込められているパートナーを見据えて声音を張った。



「俺は俺の意志で貴様を選んだ。ジランダ以外と、俺は強くなろうとも思わない。魔力の強さも何も関係ないっ、パートナーはお前だけだ!」
 

 
 あの、冷徹だった主人が此処まで感情的を剥き出しにするなんて。ジランダは恍惚に主人を見つめた。心を熱くするなど無縁だったろうに、今、こうして自分に訴えかけてくれる。嗚呼、奇跡を見ているようだ。
 ―…どうして自分は主人に見切られるなどと思ってしまったのだろう。手を差し伸べ、改心してくれた主人を、どうしてもっと信じてやらなかったのだろう!
 
 「待ってろ、今助ける」ベルトルの口から救出するなどと、言ってくれる。
 大切にされているではないか、こんなにも想われているではないか、幸せ者ではないか、自分は。
 

「一丁前に格好つけても、所詮はガキだ」


 男は起こした風を暴風に、そして嵐に変え、容赦なく少年にぶつける。

 『!!!』あまりの風圧に砂埃が舞い、主人の姿が見えなくなった。
 ジランダは何度も格子に体をぶつけ、檻から脱出しようと試みるが叶わず。それでもジランダはガタガタと暴れる、檻を何度も何度も突破しようとした。身が砕ける思いで、何度も、何度も、なんども。




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あきゅろす。
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