小説 『人形操り 弐』 怪異とは、常と異なる怪しげなもののこと。 赤座の解釈はそれだ。 だからたとえば、人形なら動かなければ怪異ではない。 「…なんでいんの?」 それすなわち、動けば怪異。 赤座が玄関の扉を開けると、そこには若干くたびれた人形が立っていた。 ☆…☆…☆ 「すぐそういうことに首を突っ込む」 赤座の伯母であり、大学の教授でもある赤座志麻は、呆れた顔で人形を見た。 「…人形が動いたってことに、違和感ないの?」 「あたし達のお雛様、たまに動いたわよ」 「…もういいです」 どうするのよと言われ、赤座はどうしようと返した。 まさか、追ってくるとは思わなかったのだ。 「…供養、とか」 「誰か待ってるみたいだったんでしょう?」 「…う」 抱えた人形が重い。 軽率だった。関われば縁が生じる、縁が生じれば“なにか”がおこる。それを忘れてしまうことがどれだけ危ういことか、赤座はよく忘れてしまうのだ。 「……あたしの知り合いに」 「え?」 うつむいた赤座に、赤座志麻が言った。 「人形が好きで仕方のないのがいるわ。そいつに任せましょう」 「でも」 人形が、かたりと首を動かした。赤座は悲鳴をのみこみ、出方をうかがう。 人形は志麻を見上げていた。 「…貴方が誰を待っているのかを、あたしは知らないわ」 その目をまっすぐに見て、志麻は言う。 「けど待つんなら、再会したときに取って置きの状態で会いたいでしょう?」 人形はそれを聞くと、かくりと力なく首をもどし、動かなくなった。 その日のうちに人形は連れていかれ… その後どうなったか、赤座は知らない。 [*前へ][次へ#] |