青春メモランダム
X.
事件は突然訪れた。
…次の日の昼下がりの屋上。
俺は一人でいた。羽鳥は委員会の呼び出しがあったみたいで、先に行っててと言われた。
最近は澄み切った青空に不快感を感じなくなった。
ぼうと見つめる雲が伸びてはちぎれた。
しばらくすると
バンッ―…!!
勢いよく扉が開かれた。羽鳥はこんな乱暴に扱う奴だっただろうか?と身体をそちらへと向かせると突然胸に衝撃が走った。
「りーと♪」
羽鳥…じゃなかった。
昨日電話で話していた奴。…なんで居るんだよ…っ!!!?
一気に頭に血が上った。
「何の用だよ?」
冷たくあしらう。
「え〜?だって璃斗に会いたかったんだもの。お昼の時間何処にもいないから探しちゃった♪」
…探さなくてもいいのに。
俺の腰を抱いていた彼女の腕が次第に俺の首へと巻かれた。
「ねぇ…遊ぼうよ?」
猫撫で声に悪寒が走った。…気持ち悪い。俺は顔を背けてコイツを離すべく両肩を押す。
「だからお前とは遊ばねっ…っ…!?」
コイツが一瞬何をしたのかわからなかった。
…ただ気付いた時にはキスされていた。
力ずくで押し返そうと腕の力を強くした時…
ガシャ―…
「っ!?」
やっと離れた唇。
音のする方を見遣ると
「新城…君?」
呆然と立っている羽鳥。
「羽鳥…違う、違うんだっ!!」
…何を必死になっているのだろうか。これから羽鳥に平手打ちをかまされる身なのに。…もう羽鳥と別れるのに。
言い訳がましい自分に吐き気がした。
羽鳥は俯いてしまった。
…怒っているのだろうか?悲しんでいるのだろうか?呆れているのだろうか?
しかし羽鳥の次の行動に俺は呆然としてしまった。
「な、なんだ!!今日はそちらの方とお昼なんですねっ!すみません、邪魔しちゃって!!」
バッと顔を上げた羽鳥は…
…笑っていた。
俺は驚愕した。
なんで笑っているんだ…?と。
俺が浮気している場面を見た奴はたいてい怒りをあらわにした。
…だけど羽鳥は違った。
ふと羽鳥の手が目に入る。
…微かに震えていた。
拳を固くにぎりしめて、目元を赤くして………笑っていた。
胸のえぐられる感覚に目眩がした。
「じゃ、じゃあ失礼しました!!」
今にも泣きそうな顔で無理に笑顔を作り、羽鳥は屋上から去っていった。
「待て、羽鳥!!」
「ちょ、璃斗!?」
後ろから聞こえる制止の声も聞かず、俺は羽鳥を追った。
…何故か?
んなの知らねぇよ。
ただ無性に羽鳥を追った。
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