03
「瀬戸も貰うだろ、バレンタイン」
「直接はねぇな」
「まー、瀬戸ちんオレらと関わる前は威嚇の空気纏ってたしなぁ」
「威嚇の空気ってなんだよ」
「近寄るなオーラ?」
最近俺らと居るときは無いよな、と多貴は思い出を振り返るように言う。
俺は直接貰わないという言葉が気になって「直接はないのにどうやって」と首をかしげつつ聞いてみた。
少しの間無言で目を合わせたままだった瀬戸は、記憶を手繰り寄せているのか目を反らして天井を見た。
「あー…下駄箱、机の中、机の横のフックに掛かってた事もあった。あと、」
言葉を途切れさせて眉を寄せた瀬戸に、どうしたのか声をかけると言いにくそうに答えてくれた。
「中三ん時、鞄の中が覚えのねぇ箱とか袋で埋まってた時は正直恐ぇと思った」
「ぶっは!」
「それはこえぇっすわ」
「凄いね」
あまりの衝撃によく覚えてるのか、バレンタインに鞄を放置して教室から出るのは不安だったらしい。確かに。
「モテモテなのに直接渡さないってどうなんだ」
「知らね」
「つかそれ怖くて開けられないっすよね」
「だから実家のテーブルに放置してたら無くなってた」
「あー…なるほど」
瀬戸の家庭事情を知らない幸丸は納得したように頷いたけど、俺はちょっと疑問した。
テーブルに置いといて無くなったってことは家族が食べたかしたのかもしれないけど、疑問しなかったのかな。
「食ったの?」
「分かんねぇ。気にしてなかった」
「え、じゃあ去年はどうしてたん」
高校入学から独り暮らしをしているならもうテーブルに放置は出来ないし、と思って聞いてみると、そこまでするのかという返事がきた。
「単位足りてたから前後2日休んだ」
「…っ、うははは!瀬戸ちんすげぇ!」
「確かにそれなら避けられるね」
「オレ三人が印象的だったから瀬戸が休んでんの気付かなかったっす」
「すげー、徹底的過ぎて笑う」
ちょっと関心してしまうくらいだったが、今年もそんなバレンタインが近付いているので「今年も休む?」と笑いながら聞くと、瀬戸は少し悩んでから言った。
「……来る」
「去年の上乗せで来るかもよ」
「受け取らなきゃイイんだろ」
まあ…ただ直接渡されるならだけど。
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