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06
 


「なにしてたんだよ、諒ちん」
「……んぁ?…あー、拉致られてた」


 ぐったり机に伏せながら答える。
 うぁー…腹減った。

 つぎは確か数学。あの先生は大抵遅刻。ズボラ教師って有名だし。


「拉致…?」


 若干雰囲気が変わった多貴の声に、視線を寄越せば、険しい顔。
 思わず苦笑い。
 伊織も無表情になっちゃった。


「わり、遅れたー」


 言いながら堂々と入ってきたのは、ゆるくスーツを着た、私立高校にはいただけない風貌の美男教師。
 女子生徒と一部のそっち系の男子生徒に人気だ。
 主に、ズボラな所とからしい。なんだそりゃ。


「……んだよ、瀬戸はサボりかぁ?」


 適当に出欠確認してた数学教師は、俺の後ろの席に視線を寄越す。
 俯せから起き上がって、頬杖をつきながらダルダルな感じで始まった授業をぼんやり見てたら。


「───…遅れマシタ」


 これまた堂々と教室に入ってきた瀬戸。
 一瞬、教室にいた生徒の視線が瀬戸に向けられて、瞬時に前に戻る。
 怖がりすぎじゃね?

 ちなみに俺は見てない。
 伊織も見てない。
 多貴は相変わらず横向きだから、たぶん見てる。


「知ってるっつーの。なんで語尾片言なんだよ」
「………」
「シカトかコラ」


 どうやら数学教師の声は素通りらしい。
 ちらと視線を向けたら、ふいに目が合った。いや違う。
 瀬戸はずっと見てたっぽいな。
 ぐっと眉間にシワを寄せたまま、だけど変わらず男前。


 ちらほらとクラスのほとんどの視線を受ける瀬戸。本人はその事は気にしてないってか眼中にないようで。

 俺の周りの席には美形が変に集まってるせいで、がっつり色んな視線が集まったりする。


「………諒ちん、なんかしたの」
「……いや、」


 …スネ蹴ったこと、そんな怒るか?


 横向きで、俺の席の机に腕を置いて身を近づけた多貴は、こっそり聞いてきた。
 きっと瀬戸の視線を追ったんだろうな。

 頬杖をついたままの俺は、さっきの屋上での出来事をいつ話すか悩んでた。


 席に座るまでも、座ってからも瀬戸の視線が刺さる刺さる。
 敏感じゃない俺でもわかるくらい。

 俺は相変わらず前を向いてるし、伊織は一瞬見ただけで気にしてない。
 多貴は教科書開いて持ってんのに、教科書見ずに、ちらちら後ろを見てる。


 まじ、なんなの。瀬戸。


 


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