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07‐side/瀬戸
 


 目の前には、十七歳男子高校生の平均より少し細身な背中。茶色い長めの髪に比較的整った顔立ちのクラスメート。
 そいつは、昼休みに柔道部六人を一人で倒した人物と同じで。とてもじゃないが、喧嘩が出来るような見た目じゃあない。
 数学の時間に関わらず、教科書を見ないでその目の前の背中を見ていた。





 昼休み、寝る為に上がっていた貯水庫みたいな建物。
 その上に仰向けで転がってたら、屋上に入る扉が開いた気がして。次に数人の声が聞こえて軽く身を起こせば。
 少し離れたところで、ガタイの良い数人がまるで何かを囲むように立っていた。
 屋上には普段出入り自由なのに生徒が来ない。
 それは俺が理由らしいけど。

 こんな所にくんなよ。
 なんて思いながらも何故か無視できなかった。


 断片的に聞こえる言葉と。
 ちら、と見えた中心に立っている生徒の姿はとてもじゃないが喧嘩が出来るような体格じゃない。
 集団リンチかよ、なんて溜息を吐いた時だった。


「───さすがにこんなんばっかりだとウザイんで、見せしめにさせてくださいねー」


 いやにはっきり聞こえた声は、聞き覚えがあって。
 そして、見えた顔が愉快そうに笑っていた。
 見覚えがある顔に聞き覚えのある声。
 当たり前だ。
 だってそいつは、俺の前の席のクラスメートで。
 今まで見た限りで、聞いた限りで。
 喧嘩をしたとかいう話も、不良と関わりがあるとか、まったく関係ないって。
 なのに。なのになんであんな強ぇんだよ。



 それから、たぶん初めての会話。
 なんも関係ないのに、自分でも分かんねぇくらい無性に腹が立って喧嘩腰になる。

 元々自分の目つきの悪さは自覚していたし、自慢じゃないが大概は睨むだけで怯えたりするヤツばかりで。
 自然に、避けなくても道はあくし誰も寄ってこない。
 でも。
 胸倉を掴み上げても、キレて睨んでも、その表情に変化はなくて。
 クラスメートの仁科は、睨み返す事も怯えもなく、ただ見返してるだけだったんだ。

 あげくにスネを蹴られて、まだ痛かったりする。
 強ぇんだよ、足の力が。



 目の前には変わらない背中。
 聞き逃してる授業の内容。


 あの時俺と同じくらいの高さにしゃがみ込んで仁科が発した声と、弧を描く口元に反して冷めた目とその奥の妖艶さが、忘れられずにいる。


 


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あきゅろす。
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